やめてほしい。こういうまねは。

「勿体ないやろ。無駄は出さん主義やねん」

部誌の当番制など可決したのは誰なのだろう。なんや今日のひとネタ欄て。それこそ無駄ちゃうんか。
そこだけ埋められずにもう小一時間経つ。さっさと終わらせて帰るつもりだったのに、顔を合わせてしまったじゃないか。
白石蔵ノ介は今日も颯爽と、白い左手でパーフェクトな挨拶などかましくさり、目の前に立っている。
花が薫る。吐きそうになる。無情に太陽は落下していく。

「…なんですか、これ」
「甘いもん好きやったよなあ、財前」
「はあ」
「せやから漬けたんや」

のっぺりとした長机に置かれたラベルのない壜には、くたくたとクリーム色に甘ったるいとろみをまとわされた花がつめられている。
鋏の鋼も、フォークの銀も、今度は俺を助けてくれない。
食ってへいきなんすかね、そもそも。喉にからまるのは、あの日腹におさめて、そのまま腐った同じ花弁に他ならない。
さあなあ、毒やったんかもな。白石部長は赤子をさとすように声の端にほほえみを垂らす。
白いカッターシャツの裾ばかりみている。かげり出した古くさい部室に、時をとどめられた花が満ちる。

「ちゃあんと残さず食べなあかんで」

俺も、お前も。
ぱきんと間の抜けた音をたてて、蓋が開く。
ゆるされないことをした、と思った。重なりあいたゆたうはなびら。

「部長」
「なに?」
「顔」

見てもええですか。

花は死んだ。皿のがらすはなく、掬う匙もない。
煮詰められたシロップにゆびをひたす。かすかに差し込む落日の色が、溶けて爛れている。








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