「どうでもいい、って言い切れるのは、突っぱねられるのは、凄く強いことだと思うんだ」

室ちんは的外れにオレを称賛した。オレは聞いてやっているなんて言っていない。
オレはそうはできない。できなかったから。室ちんは喋り続ける。知ってる、こうゆうの独白っていうんだ。ドラマの見すぎなんじゃないの。それって画面の向こうの視聴者に向かって一人ぼっちのときに言うんだよ。

「だからさ、アツシは強いよ」
「ねーちょっとうるさい、いい加減にしてくんない」
「どうでもよくないものを、どうでもいいってオレは言えないんだ」
「どうでもいいもんなら言えるでしょ。べつにおんなじじゃん」
「どうでもいい?本当に?」
「なんなの。うざいんだけど。ワンオンワンでもしてみよっか?そんなにヒネリ潰されたいならさー」
「アツシはオレをバスケでねじ伏せようとするね」
「だって室ちん好きじゃん、バスケ。好きなものでねじ伏せられたらさすがに黙るかなと思って〜」

室ちんの押し付けがましい独白もどきはなかなか終わらない。どうしても振り払えなくて、食いついてはなさなくていらいらした。しつこいのは嫌いだ。いやなことをしつこくされるのはもっともっと嫌いだ。
室ちんはぎらぎらした目でバスケットボールを抱いて口を閉じない。眠れなくて心細い、外国の物語の少女が唯一のともだちのぬいぐるみに話しかけているところを連想するんだけれど、室ちんは髪も目も真っ黒で、おまけに背のでかいひとつ上の男だ。ファンシーもファンタジーもかけらもない。ばかみたい。めんどくさい。

「アツシ、」
「うっせーなマジで」
「アツシ、ちゃんと聞いて。オレはなにもかもすっかり本当のことを言ってるんだ」
「何がほんとなの。見当違いすぎてわけわかんない。オレもう帰りたいしおなか減ったしほんとうざい」
「本当だから嫌がってやめさせようとしてるんだろ?わかるよ」
「あのさあ、アンタさ」

インネンのライバルとの決着にフンキすんのはかってだけど、その暑苦しさ押し付けるのやめてくんない。アンタの正解がオレの正解だって決めつけるケンリがアンタにあんの。
室ちんは初めて、まだなにか言いたげだった口を一瞬とじた。飲み込んで、そしてただびっくりした無表情なのに、同時にとってもなきそうな顔をした。きゅ、と引き上がるなみだぼくろ。
へんに凝り固まって歪んできたくせに、フクザツカイキなオモザシで佇んでいたりしたくせに、上手にそれを隠しきれもしないくせに、真っ当に短絡的な解答を是とするような、それを正義と掲げて強いてくるのがオレには許せなかった。オレは室ちんじゃない。室ちんの気持ちなんてわかんない。知ろうとも思わないし聞きたいなんて言っていない。言っていないのだ。
アツシ。室ちんはあらん限りの熱情を、あわれみを、慈しみを込めた口調でオレの名前を呼んだ。ひとみをあつく潤ませて、こんなにしつこくまとわりついて、そこまでする意味がわからない。される意味がわからない。

「逃げられないんだよアツシ。オレはお前から、お前はオレから」

めちゃくちゃに叩き潰したいようなかおをして、室ちんは目の前に立っている。
しらない、わかんない、全然響いてこない。オレはあらん限りの無表情で室ちんを見下ろす。侮蔑をひとさし込めて。
しらない、わかんない、全然響いてこないようなふうに、オレが「強く」なったことなんて、室ちんは知らない。聞きたいなんて言わない。聞いても来ない。オレは、話そうなんて思わない。室ちんになんて、全然なんにもいらない。











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