「そういや、あん時さー」
「いつですか」
「いつ?…いつだ?2年の夏…?ハッキリわかんね」
「はあ…それで、なんですか」
「あ?ああ、テツお前さ、たしかなんか言おうとしたんだよ。あれ、何だったのかと思ってよ」
「…ちょっと手がかりが少なすぎて、さすがに思い当たらないんですけど」


まったく、構えもせずに、手首だけでこの人はさも簡単そうにシュートをする。
コツは掴めず、精度も上がらずで面白くないので多少答えがつっけんどんになったかもしれない。
会話もそこそこに、青峰君の手を離れ、リングをすり抜けたボールを追う。あまり時間はない。
なんだっけなぁ、あのあと眠っていないという青峰君は大きなあくびと伸びをした。「呼び止めたくせに、やけに長いこと黙ってたこと、あったろ。練習の後かなんか」
つかまえたボールに指を滑らせる。表面の凹凸はもうだいぶ削れて、なめらかな手触りは少し心地いいけれど、扱いづらくなってきた。


「…体育館でですか?」
「あー…、多分そーだ」
「と言うか、よく覚えてますねそんなこと」
「そん時も気になったんだよ。今たまたま思い出した」
「僕のほうはさっぱりです」
「使えねーやつだな。真剣に思い出せよ」
「言わなかったんだから、不要と判断して忘れ去ったんじゃないですかね」
「そーゆーことじゃねえよ気になんだよ」
「いいじゃないですかそんな昔の話。当時の僕の考えるようなことです」
「んだそれ。今も昔も、テツはテツだろ」


頑固なとこも、シュートがヘタクソなとこも変わってねえ、あん時があるから今のお前があんじゃねーの。

放ったボールは、やっぱりゴールリングに嫌われっぱなしだった。


「たとえ思い出しても」
「あん?」
「言わないと思いますよ。言う必要がなかった、言わなくて良かったんだと思うので」
「…んっとに、頑固なヤツ。いーだろ昔話くらい付き合ってくれたって」
「女々しいですよ」
「嫌でも思い出すんだよ、お前と二人でバスケなんかしてっから」


青峰君の一歩は大きい。歩くのが早いわけではなくて、ゆっくり大きく踏み出していく。すい、と僕の脇を追い越してボールを拾い上げる背中。
ゴールの裏でシュートの構えを取って、そのまま放る。どこにもかすらずに細い軌道を描いたボールは、ぱっと真っ直ぐに輪をくぐって落ちて僕の方へ転がってくる。
みててやっからもう一回やってみろよ。青峰君が言う。
爪先に当たったボールを拾って構える。思い出さないわけないだろう、と思う。僕がボールを放つのは、ゴールなんかじゃなくて、君だったんですよ。
しゅ、…がつん。
青峰君は呆れて腰に手をやって項垂れた。


「お前ほんっとーにヘタクソだな…」
「はあ、お陰さまで」
「なんだそりゃ嫌味か?」
「まさか。事実です。パスは大得意ですし」
「知ってるっつーの」
「はい」


それが、僕です。僕でしたから。


「…なあ、テツ」
「なんですか」
「思い出した?」
「いえ全く」
「……」


がりがりと後頭部を掻いて、面白くなさそうに唇をひん曲げる青峰君は少しあの頃みたいで、僕はこっそり音をたてないように笑う。
思い出すわけない、忘れていないんだから。
正確には、練習の後立ち寄ったコンビニの駐車場だ。もうあまり一緒に練習もしなくなって、青峰君が苦しそうにバスケをするようになって、そんな頃。
青峰君。あの時僕は、とてもひどいことを言おうとしていました。
あの時の僕にはおそろしく魅力的に感じた、くたびれていく君を、自分を、救い出せると一瞬でも信じかけた、ひどいことを。















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