肌はきっと、うそをつかない。
かつてわかりあうために得たはずの言葉は、いまはもう物事を難しくするばかりだ。


赤司は今日も、頭からタオルを被り顎から汗をぽとぽと垂らしている。さっさと拭かないと体を冷やす、そうたしなめると、汗が肌をつたうのが好きなのだという。少しの間こうしていたいんだ。生きているって感じがするだろう。
雨に風に、頬を打たせることを赤司はためらわない。日差しに背中を焼かれることも、芝生に寝転ぶことも、アスファルトに裸足で降りることも、両手で砂をすくって落とすことも、馬の鼻面に額を寄せることも。
指先に巻き付けた布を、どきりと後ろめたく思ったことがある。

汗みずくの赤司は、たしかに生きていた。いつもただ、小さなひとつの生き物として映った。
その姿をレンズの隅に確かめて、安心していたことがある。



「赤司。すぐに汗を拭いて着替えろといつも言っているだろう」
「くどいぞ緑間」
「何度も言わせるな」
「指図は受けない」
「懇願だ」
「へえ、言うようになったじゃないか」

ある時赤司はそう言って笑った。それから、じゃあもうやめるよ、と続けたあと、無造作に近付いてきた。

「お前の手を借りることにしよう」
「は?」
「手を出せ。そんなもの、まだ巻くなよ」

左手の引かれていったのは、赤司の首だ。上から押さえつけられて、頸動脈がどくどくと上下するのがわかる。まだ冷めきらず、人並みに熱い皮膚のしたで、赤司の血液はたえまなく赤司の全身に送られ赤司を生かしている。
指に手首に、顎をつたった汗がぽとぽと落ちてくる、これはたしかに、

「…生きてるな」
「そうだろう」
「喋ると喉が震える。発声の原理は知っているが。…百聞は一見にしかずというやつか」
「なかなか面白いんだ。手首をにぎったり、心臓のうえに手をあててみたりすると」

これからはお前に頼むよ。
俺は生きているから、時々お前がこうして確かめておいてくれ。


赤司はばかばかしいほど簡単に、そんなふうに投げ捨てた。
赤司、オレはお前の生の実感を、たしかめる術をひとつ、お前から奪っただろうか。


雨に風に、頬を打たせることを赤司はためらわない。日差しに背中を焼かれることも、芝生に寝転ぶことも、アスファルトに裸足で降りることも、両手で砂をすくって落とすことも、馬の鼻面に額を寄せることも。
けれど赤司、それだけか。
お前が肌でたしかめたかったものは、この世界にたったそれだけだったか赤司。


「なぜオレが?」
「緑間なら、覚えているだろうと思ってね」


喉笛を委ねて、どくどくと生きる、小さなひとつの生き物は人形のように笑った。


白い首に、指をそわせる。左胸に、右手首に。
赤司はだまってオレを眺めて待っている。オレは裸の利き手でたしかめたことを、赤司へ伝える。手のひらで。赤司が満足を得て頷くと、作業は終わりだ。


赤司、オレはお前の生の実感を、たしかめる術をひとつ、お前から奪っただろうか。
















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