雪、明日まで降り続くみたいだねと室ちんがわたあめみたいな息を吐いた。だいたいいつでもなんでもまず楽しもうとする室ちんの姿勢は、オレにとってはいつでもなんでも暑苦しくてめんどくさい。
北日本、とくに日本海側は積雪による事故にご注意ください。

「寒い……」
「夕飯食べに行こうか」
「今日なに食べようかな〜」
「こう寒いと、シチューとかいいよな」
「ニンジンがイヤだ」
「よけても食べてあげないよ」
「ケチいことゆうなし」

毒みたいに快活に笑った室ちんは渡り廊下に繋がるドアを一気に開けて、真っ白になった校庭を眺め、すごいねだとか言っている。「ぼたん雪っていうのかな?」
はやく渡って食堂行こうよっていうのを我慢して、後ろから一緒に見てみる。見渡すかぎり白い。

「アメリカって雪積もんないの?」
「そんなことはないけど。…アツシ、テレビとかで秋田の冬の風景見たことある?」
「あるかもしんないけど覚えてない」
「あいやー何してる。邪魔くさいね」
「あー劉ちん」
「お疲れ様」
「ねー中国は雪積もる?」
「地方によるに決まてるアル。中国の広さなめんじゃねーアル」
「アルとかうける〜」
「さみーから早く行けふたりとも」
「ごめんごめん。行こうか」

夕飯にはシチューがあって、室ちんとニンジンを押し付けあってたら劉ちんが食べてくれた。
赤ちん、なんか今日雪積もんだって。

「京都は雪降んないよね?」
『降るよ』
「アララ?西のほうなのに?」
『もちろん秋田ほどではないが』
「へ〜。雪楽しみ?」
『暫く降るって予報はないよ。雪景色はまあ、嫌いではないな』
「オレ超めんどくさい。初秋田の冬。すごい積もったら写メ送るね〜」
『ああ』


翌朝、寝坊だと室ちん劉ちんから鬼のような着信を食らって起きた。寝坊?だってまだ暗いじゃん。朝日昇ってなくね?

「……あらら」

窓が半分埋まってた。張り付いた雪で。雪かきするからとあちこちスノーシャベル持って行かされて朝練はできなかった。のにとんでもなく疲れた。ずぼずぼ、脛ぐらいまでへいきで沈む。雅子ちんなんか膝より上までくるんじゃないの、これ。
校庭が終わったら裏の駐車場に来い、と号令を出す雅子ちんの声がなんだか、外したイヤホンから漏れるくらいにしか聞こえない。雪に音が吸われるんだね、室ちんはまたわたあめを吐いた。
駐車場もえっちらおっちら雪かきして、くたくたで受けた授業のおわりにふと外を見たら、駐車場のはずのそこには車なんか一台も見当たらなくてアラ?と思った。朝あんなに頑張ったのに、いつもずらっと並んで停めてある先生らの車は一台も場所さえわからない。埋まってる。マジかよ。
まだ雪は降り続いている。「明日はもっと大変なことになりそうだよ」と言うわりにちっとも大変そうじゃない室ちんのまつげに雪がふわって乗っかって、あーあったかい部屋で白くまアイスが食べたい、と思った。


「……うっそ、引くわ〜……」

さらにつぎの日、「たくさん雪が積もったらかき氷シロップかけて食べてみたい」とかいう夢も打ち砕かれるような景色にオレはドン引きだった。
真っ白。ほんとに真っ白だ。見慣れた街路樹とか、家とか信号機とかが妙に遠く小さく見える。空も景色も白っぽくて、曇ってるのにちかちかまぶしい。ずっと見てると遠近感がわかんなくなって慌てて何度もまばたきをした。
ああ今日が日曜でよかった。

「おはよう、アツシ」
「室ちん…外やばいね…」
「裏手の通用口の方、見た?もっとヤバイぞ」
「うっそ」

室ちんは雪が降り始めてから数日、ずっとうきうきしている。雪かきさえちょっと楽しそうにやっていて、やっぱアメリカは雪なんか降らないんじゃないのかな。
はやく見に来いと急かすので、しょうがなく室ちんについていく。まってまって、そんなすごいなら携帯持ってかなきゃ。写メ写メ。
そして写メどころではなかった。秋田の冬、なめてたゴメンナサイ。

「…なにこれぇ」

慣れた手つきで雪かきしている用務員のおじさんがまるで子どもに見える。北側で、常に寮の陰になっているそこはさっきまで見ていたより圧倒的に積もりまくっていた。
車一台やっと通れるくらいに確保された道の脇に、要塞みたくそびえた雪壁は、最高潮にはしゃいだ顔で走っていった室ちんの背丈と殆ど変わらなかった。

「な、すごいだろ」
「いや…やばいでしょ…毎年こんなに積もるの?」
「そうみたいだよ」
「秋田ってどうなってんのほんと」

そこそこ踏み固められた獣道みたいなとこを選んで歩き、室ちんのところまでいってみる。どこもかしこも真っ白けでわからなかったけど、雪はまだ降っていた。室ちんの髪とコートをちらちら白が縦断していく。
アツシ、写メ撮るんじゃなかったの、とか言われても、これここに立ってたら画面いっぱいに雪で意味不明っぽいんだけど。
ポケットから携帯を取り出して、なんとか電話をかける。指がつめたくてうまくいかない。赤ちん、赤ちん、はやく出て、手が凍りそう。
あのさあ、秋田の冬すっごいよ。あのね。
『もしもし、敦?』電話が繋がって赤ちんの声が聞こえたら、おはようとかもしかして起こしちゃった?とか、そんなん全然出てこなくて、だって見渡すかぎり雪で、ジオラマみたいにみんなみんなちゃちく見えて、雪の壁に挟まれて見上げた空は遠く遠くて、赤ちんあのね。

「小人になったみたい」















[ 13/49 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -