明日死ぬんだってさ、
2014/12/24 05:07





だから明日は一日中僕らを抱き締めていたほうがいいよ。明日が明後日になるまでずっと。どこへ行くにもひとときも目を離さずにいたらいい。いつどこで、なぜ、なにが起きてしまうかわからない、そうだろう?

「お前はそういうの、信じるたちだろう。そういう天命を、けれど補正する術があるとも信じている。さあどうぞ、この行く末を変えて見せてくれ」。
ガラスの天板にならべたふたつのラッキーアイテムを、赤司のゆびが弄う。一揃いの小さな陶器の置物たちをいくつもオセロボードに乗せながら、チェスができるかな。そう言って微笑む。
味もよくわからないカップの中身をくちびるにつける。まんじりともせず1秒ずつしかカウントすることのない、正確でつまらない微かな音を聞いている。幾通りでもこの一回り小さな人並みの体がばらばらに、あるいは紙のように宙に舞い、人形のようにちぐはぐに折れて弾けるさまを予想してはじっとりと手のひらを濡らすものに気づかないふりをした。想像し飽きた。当人は今まさに目の前で戯れ言じみたチェスを駒落ちでやらかさんとしている。
左右で落陽の、グラデーションの瞳がたわむれにこちらを向いて、したりと細められる。
あと数時間。

「死ぬかな」
「…この部屋ごと潰されるか、お前がキッチンで刃物でも持ち出さない限りは今のところ、その気配はないがな」
「あぁ。そうだね」
「なぜ今日なんだ。誰になにを言われたというのだよ」
「誰になにをでもないよ。そうなんだ。僕はそう知っていた、というだけさ」
「させてたまるか。寝覚めの悪い」
「ふふ」
「…怖くは」
「ないよ。なあ真太郎。よく見張っておくんだよ、僕らを」

ぱちり。ゲームを楽しむようにまなじりを細めたまま、赤司はひとつまばたき、そうすると、伏せたはやさで開いた左の瞼のしたは右目と同じ煌々とした赤に変わる。
憑き物の落ちたように表情はするりと抜け落ちた。歪みや引っ掛かりの減った視線が指にからまった陶器をみとめ、盤に落とした。
よくよく見張っていろ。赤司は、今裏側にひそんだ赤司はそう言った。
明日死ぬんだってさ、と。

「緑間」
「なんだ」
「……緑間」
「…赤司?」
「みどりま」

この赤い目をこそ、何より作り物じみていると感じていた。空気に汚れるまえの、この一回り小さな人並みのからだに流れる血液の色にすぎないと、本当はただそれだけだったのかもしれないのに。
陶器をはなした指がのろりと胸元を探った。撫で下ろし、ぎち、と服にしわを寄らす。皮膚が重苦しく冷えた。
あと数時間。日が落ちるように。そんなばかな話があるだろうか。

「ない」

ない、いない、緑間。いない。
あかい目はしずかに揺れて、夜の砂漠のすなほどに冷えた声は帰り道を失ったこどもだ、いない、と繰り返した。
抱き締めていたほうがいいよ。歌うようにそう言った、そのとおりにしなかったことを震えるほどに後悔する。凝り固まった心細げなかおに、填まったふたつの目はもうなにも溢さない。
駆け寄って抱き締めたかった。体はひくりとも動かない。
二度とこの声に、下の名前を呼ばれることはないのだ。ただそう感じた。埋まらない喪失を。














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