はじまりのスクリプト




今日に限ってどうしてこうなったのか、シャンクスはいつもと違う息苦しい空気に、自分以外は気付かないような小さなため息をついた。


それはいつものお決まりのパターン。
成長した自分達がこの船を降りたらの話を、見習い二人、酒を酌み交わしながら語り合う。
シャンクスが「世界を見て回る」と言えば、バギーは「世界中の財宝を手に入れる」と言い、最後には「お互い海賊になったからには、海で会ったら殺し合いだ!」と声高らかに肩を組んで酒を煽る。
まるでシナリオの様に、同じやりとりを何度も繰り返してきたのだ。
でも今日は一つ違った。


「シャンクス」

「ん?」

「お前、やっぱりおれの船に乗る気はねぇのか?」

「どうしたよ、急に」

「答えろよ」

「おれは、財宝になんか興味はねーって!お前とは価値観が違いすぎる。この船を降りたら一緒にいる理由もねーだろ!」

「…そうか」


いつもだったら「テメェなんかこっちから願い下げだ!ハデアホシャンクスめ!」なんて罵声を飛ばしてきてもいいものなのに、バギーはそれっきり、何か言うわけでも酒を飲むわけでもなく、こっちから話しかけても、「あー」とか「うー」とか言うだけで、気まずい空気が流れるまま今日の宴はお開きになったのだ。


先ほどまでのやりとりを、前を歩くバギーの背中を見ながら思い出していたシャンクスは、バギーに気付かれない様にまた一つ小さなため息をついた。

しかし、いくら気まずくても見習い同士、帰ってくるのは同じ部屋。
バギーは扉を開け自分達の部屋に入っていく。
真後ろを歩いていたシャンクスは、そのまま回れ右をするわけにもいかず、バギーの後に続き扉を閉めた。


部屋に入ると、まるでもうずっと前からあったように、シャンクスに背を向けて立ち尽くしているバギーが居た。



「………」

「………」



沈黙が痛い。
扉の外のクルーの楽しそうな声が別次元でのやりとりの様に耳に入ってくる。

『これからおれ、バギーとずっとこんな感じになるのか…?』

そう思うと内臓がチリチリして、喉の奥が渇いてくる。
自分でもわかるくらい顔も引きつってきた。
自分の爪先をみつめていると、自分の悪い考えばかりがどくどくと溢れてくるみたいだ。


『バギーはこれでいいのか?』


バギーを伺うと、困ったような、泣きそうな、どちらも足して二で割ったようななんとも情けない顔をしてこちらを見ていた。


『…何だよ、その顔…』


いつも憎まれ口ばかりのバギーのそんな表情は初めてで




気が付いたら、









縋るような
キスをしていた。




それは頭の天辺から足の先まで、一気に電流が駆け抜けたような衝撃だった。
身体中がぶるぶると震えて止まらない。
自分の身体がどうしてそんな反応を起こしているのか、こんな事になった経験がなくシャンクス自身も驚かされていたが、バギーの唇を食む事を止める事は出来なかった。


行為をつづけながらうっすらと目を開けると、バギーの頬はその特徴的な赤い鼻に負けないくらい上気し、気付かなかったが身体だって、シャンクスに負けないくらいガクガクと身震いしている。
シャンクスだって思春期真っ只中の健全な少年だし、こういった事(もちろん異性との)をした事が無いわけではなかったが、しかし


『キスって…こんな気持ちいーもんなのか…!?』

わかってしまったらいよいよ止まらない。

シャンクスは、身体中の熱に浮かされたようにバギーの中に舌を割り入れてみた。
ビクリと一度肩を震わせたものの、バギーの舌もおずおずとシャンクスの舌に触れてくる。

『こいつ、たぶんはじめてだな…』

そう思ったら、胸のあたりがジワジワと熱くなって、身体全体が心臓になったんじゃないかと思うくらい自身の鼓動を煩いくらいに感じた。

シャンクスはバギーの舌を誘い出すと、まるでアイスキャンディーでも食べるようにしゃぶってみた。
ちゅるちゅると、わざと大きな音をたてて吸うと、バギーの肌は益々赤くなり、その真ん丸な鼻と区別がつかなくなりそうだ。

『なんか、こいつ…可愛いいな…』

シャンクスは夢中になってバギーの舌をしゃぶり続けた。

「あぁ…、はぁあ…っあ……しゃっ…くぅす…」

「…ぁぎぃー…」

今度はバギーの口内で舌を絡ませる様に動かすと、先ほどよりも大胆にバギーもシャンクスの舌に絡ませてきた。

『ヤってるわけじゃねーのに、すげぇ感じる…』

お互い口の中に溢れてきた水分を喉に流しながら、まるでその水分を相手から貪る様に舌を絡ませる。

「んくっ…んぅ……んっ」

バギーが自分のものを喉に流し込む息遣いや、バギーと自分の舌が紡ぎ出すくちゅくちゅという水音が直接脳に入ってくるようで、シャンクスのすべてを麻痺させてしまうような錯覚に陥っていった。




いったいどれくらいそうしていたのだろうか。
とり憑かれたかのように行なっていた行為は、どちらからともなく唇を離して終幕を迎えた。

シャンクスは「はぁはぁ」と肩で息をし、被っていた麦藁帽で顔を隠した。
頭が朦朧として夢うつつのようで、目の前のバギーも、本当は現実ではなく幻なんじゃないかと思えてくる。


『やべぇ…震えが止まんねぇ……』


バギーに口付けてから感じた身体中の震えも、苦しいくらいの熱もちっとも収まる気配がない。

バギーはと見ると、目が虚ろでこちらを向いてはいるが、自分の事が見えているのかわからない目をしている。
だけれどその口の端はどちらのものともわからない唾液でテラテラと光っていて、先ほどまでの行為が現実のものであった事を物語っていた。



「バギー…悪ぃ…」

「はぁ…はぁ…あ…?」


終幕を迎えたはずの行為だったのに、規則的に熱い息を吐き出す唇を見ていたら、催眠術にかかったみたいに引き寄せられ、気が付けばシャンクスは本日二度目の電流を感じる事になっていた。



いつもとは違うシナリオにいつもとは違うラストシーン
でもそれによってわかった事が一つ

『そっか、俺…』







『こいつの事好きなんだ…』



end

シャンバギ企画様に載せていただいた小説。
はじめて書いた小説です。
キスで目覚めるシャンバギを書きたかったんですが・・・







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