「おれ、バギーの事本気なんです。」

自分では意を決した発言だった。
だけど目の前の男は、予想していたような驚愕の表情を浮かべるわけでもなく、眉間に皺を寄せてあからさまな嫌悪感を表に出すわけでもなく、ただただ日頃の彼からは想像できないような柔らかい笑顔を浮かべた。

「なんで笑ってんすか?」

「気を悪くしたか?」

「……いえ」

嘘だ

面食らったと同時に、同じくらい、いやそれ以上にその笑顔にカチンときた。
先手を打ってやろうと意気込んでいた自分をあたかも待ってましたと言わんばかりの笑顔。
まるでこっちが罠に掛けられたような…
すべてが予想外で正直面白くない。

そんなおれの気持ちを読み取ったのか、レイリーさんは「フフッ」と小さく声を出して笑った。
その声に気付き軽く睨み付けると、笑顔は崩さないまま「すまない」と言ってこちらに向き直った。

「何で私にそんな事を言う?」

レイリーさんは謝罪をしておきながら口許の笑みはそのままに、目の前の酒瓶を傾けて二つの杯を褐色の酒で満たした。
レイリーさんが好んで飲んでいるこの酒の美味しさは自分にはまだわからない。
できれば戴きたくはなかったけど、副船長に差し出されれば断ることなんてできるわけはない。
渡された杯をみつめて思案していると、視界の端に一気に酒をあおるレイリーさんの姿が見えた。

なぜかその姿にまた…………カチン

おれは無理矢理その酒を流し込んで、フーッと一息熱い息を吐いた。

「で?」

「はい?」

「何で私にそんな事を言うんだ?」

言いながらレイリーさんの手は二杯目の酒を注いでいる。

「報告なら私じゃなくてロジャーにすればいいだろう?」

「これは報告なんかじゃないんす」

もう見たくもないその酒を勢いで飲み干し、空にした杯をタンッと力強く置いて

「宣戦布告です!」

はっきりと宣言した。

「………へぇ」

そんなおれの様子にもまったく動じる気配もなく、レイリーさんは手の中の酒を旨そうに飲み干した。

「つまり、私と一戦交えるつもりか?」

「場合によっては」

眼鏡の奥の瞳が鋭くおれを射抜く。
そこらのガキなら尻尾巻いて逃げ出しそうな目線におれは負けじとくらいついた。

副船長と見習いが睨み合っているという緊迫した空間。

そんな静かな睨み合いはレイリーさんの笑みによって終了した。

「まぁ、一応肝に命じとくよ。」

「はい。おれも一応言っておきたかったんで。」

愉快そうに笑いながら三杯目を注ぎそうなレイリーさんを制しおれは扉に向かった。

「失礼します」

「そうだ、シャンクス」

部屋を出ようとしたおれをレイリーさんが引き止める。
振り向くと酒瓶を片手で振りながらレイリーさんが言った。

「今度目上の人間に話をつける時は、良い酒のひとつでも持ってくようにしな!」

そしてまたあの愉快そうな笑顔。

「すいません」

(本当に掴み所のない人だな…)

楽しそうに酒をあおる副船長に頭を下げておれは部屋をあとにした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -