君のために在ることも、守り抜くこともできないけれど(シンドバッド夢)
「これはうまいな」
「煌帝国から取り寄せた菊花酒です。飲めば寿命が千年延びるそうですよ」
「ほう……しかしなんでまたそんな珍酒がお前の部屋にあるんだ?」
「……それは女の秘密です」
ここは紫塔の一室、筆頭女官を務める私の部屋である。普通なら一女官と一国の王がこうして酒を酌み交わすなどありえない(現にジャーファルあたりがこの事実を知ったら卒倒するだろう)のだが、時折こうして彼は私の部屋にやってくる。それも私が彼と旧知の仲であり、お互い気を張らずに話ができるからであろう。
「……お前は変わらないな」
「なんですか藪から棒に」
「いや、アラジンも俺のことは『おじさん』と呼ぶくせに、同い年であるはずのお前には『おねいさん』だしな」
まだそれを気にしていたのか。かくいう彼も同世代の中では若々しいほうだと思うのだが。
「私もこれで年を取ったんですよ。実際の若さでは他の女官たちに及びませんし、年々体の衰えも感じております」
――でも、と私は続けた。
二人ともかなり酔っている。今なら、伝えても酒の席だとごまかせられる。「あなたに仕えると決めたときから、私の想いは変わっていません」
その強さも、優しさも、ずるさも、愛おしい。この人とともに戦い、その志に惹かれ、誓ったのだ、私のすべてを捧げると。
「……名前、俺は、この国の王だ」
「存じ上げております」
「俺は、お前のために在ることはできない。しかし、お前には、お前は、俺のためだけにあってほしいと願う」
――お前の生を縛る俺を許してくれ。
抱きしめられた腕は暖かく、でもどこか寂しかった。
けれど、わずかに聞こえた「愛している」本物だと知っているから。そのずるさに縛られることだって許してしまうのだ。
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