邪魔もの   承露



 覆いかぶさる様に覗き込んだと思うと、露伴はくすぐる様なキスを額から下へ落としていく。座ったままの承太郎は少し笑みを浮かべて手を翳し、ゆるく防いだ。

「こんな真昼間から」
 良いのか?と、問いながらも承太郎は本気で防ぐ素振りを見せず、ソファーに背を預けたままで露伴の頬をぞんざいに撫で上げる。
「平気ですよ。鍵掛けてますし」
 それをゴーサインと取ったらしく、露伴はいかにも嬉しそうに笑って自分のシャツに手を掛けた。

 肌が露出する部分全部に唇を押し当てる、その露伴の様子を承太郎は目を細めて眺めていた。鎖骨まで到達すると、答える様に承太郎も帽子と上着をゆっくり脱いでいく。脱ぐ邪魔になるのも気にせずに、露伴は手の甲にまで音を立ててキスをしていった。
「くすぐったい」
 ゆるく払いのけながら、また承太郎が小さく笑う。脱いだ服を床に落す間に少し座り直した後、改めて露伴の腰を引き寄せて膝の上に抱え込んだ。
 ブラインドの隙間から射す光が縞になって露伴の顔に影を作る。眩しそうに目を細めた隙に、承太郎が唇を押し付けかえした。露伴も嬉しげな小さい声を立てて、彼の首元に腕を回す。顔が間近になる度、どちらともなく目だけで笑いあった。


 そんな出来上がった空間を掻き消す様に、チャイムの大きな音が家じゅうに響き渡った。二人とも一瞬、固まってお互いの目が見開かれるのを見つめていた。
 ブラインドに指を掛けて玄関先を覗くと、露伴の知らない背広の男がもう一度チャイムを押す所だった。大方くだらないセールスだろうか。
「呼び鈴、外しときたいですね。ついでに電話も」
 苛々とした調子で呟く露伴は当たり前の様に、玄関に出て応対するつもりはないらしい。承太郎も動きを止めて気配を殺していたが、三度目のチャイムが鳴った時には鬱陶しそうに、小さく眉を顰めた。
「打ち付けちまうか」
 ふと思いついた風に承太郎が呟くのに驚いて、露伴も見えない玄関の方をつい見やる。この承太郎さんが金槌でトントン扉を打ち付けるのか、と、想像して、笑いを堪え切れずに俯いた。
「駄目ですよ、あのドア気に入ってるんで」
 過激な発想、と笑ったまま、露伴は再度承太郎の首に腕を回した。そのまましばらく耳を澄まして人の気配を探ったが、ようやく諦めがついたらしい。歩いて立ち去る音が少し離れた場所から聞こえてきた。

 二階に移動しようか、と露伴が提案したが、承太郎はしばらく考える様に天井を仰いだ後、面倒くさそうにいや、と頭を振った。むき出しになった露伴の腹を手のひらで撫で下ろして引き寄せ、密着させる。唇を突き出すと露伴が仕方ないな、と言いたげな表情をわざと作ってそれに答えた。
 最初は緩慢に、けれどすぐ貪る様に相手の唇に触れながら手は相手をまさぐり合う。ぴったりとくっついた胸から腹に掛けて、お互い波打つ様に脈動するのが心地良かった。


 その心地良さをぶち壊して、チャイムの音がまた大きく、室内に響いた。
 先ほどよりも至近距離で目が合いながら、ゆっくり離れると口の端から唾液の糸が紡がれすぐ切れた。二人で玄関の方を向くが、どうも次のチャイムが鳴る様子はなかった。
「腹立つなぁ」
 もしあのセールスマンだったなら服を着なおしてでも怒鳴りつけてやろう。そう思いながら露伴が窓から見てみると、今度は別の人物が見えた。近所に住む世話好きの主婦だ。何の用事かは見当つかないが、さして緊急の用事でもないらしく数分も待たずに立ち去って行った。

 しばらくはお互い、続きをする気も失せて黙っていた。もし再開すればまたチャイムが鳴るんではないかと、普通ならしない心配を真面目にしはじめる。少しだけ身体の離れた距離では相手の浅い呼吸の音まで耳に届いていた。
「いっそ外で堂々と絡んどくか」
 また、ふと思いついた様に承太郎が口に出した。
「はぁ?」
 親指で背後の窓を指差す彼の表情が真面目なままで、露伴もつい、真面目に捉えて訊き返した。
「そうすりゃ皆、目逸らし逃げてくぜ」
 承太郎は一瞬困った様に口だけで微笑んだが、すぐ茶化した口調で答えて露伴の腰に手を回した。露伴もそれで気付いたらしく、呆れた様に笑ってじゃれ合いを再開する。
「ちょっと良いかもとか、思っちゃったじゃないですか」
 目を丸くする近隣住民を想像すると、また余計笑える気がした。



 2014/06/01 


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