故郷   仗露



 ジョースターさんには前日の見送りがしたいと言い出して、露伴にしては珍しく、おれも連れ立ってホテルに行くのを許してくれた。

 露伴や承太郎さんに気付かれない内に、ジジイにこっそりおふくろの写真を渡したその後は、気がそぞろであまり会話にも加わらずに、大人たちで別れを惜しむのをぼんやり聞いていた。
「なあ、仗助。……彼女は、どうなるんだ?」
 ホテルからの帰路に着いた所で、露伴が急に真面目な顔になって、そう訊いてきた。
 小さく指差された背後を歩きながら振り返ると、まだ手を振っている自分の父親の姿と、もう片腕に抱かれている赤ん坊が見えた。
「ジジイが正式に養子として引き取るって」
 静を引き取るつもりだと聞かされたのはつい数日前の事だったが、自分にとってジョセフ・ジョースターと言えばあの赤ん坊を抱いて居る姿のイメージの方が印象にあったし、改めてそんな事を言われてもだからどうした、という程度の感慨しか沸かなかった。
「じゃあ、妹なんだな」
 露伴に言われてようやく、そういえば妹にあたるのか、と、ジジイが自分にわざわざ言ってきた理由を把握できた。どうもそのぐらい、自分にとってあの男が父親である、という印象は薄かったらしい。父親として認めない、というわけではなく、ただただその実感が沸かないまま、帰国の時を迎えてしまっただけだ。

 一度くらい親父とでも呼んでやれば喜んだだろうかと思いつつ横目で露伴の顔を盗み見ると、どうにも何か言いたげな、いかにも複雑そうな表情をしていた。
「何スか?」
 足を止めないまま顔を覗き込むと、露伴も視線だけ合わせて、一瞬言うか思案した風に口を小さく開いた。
「……彼女は日本人だし、ここじゃあなくても国内の方で引き取る話くらい出たんじゃないかと思ってな」
 そして結局口に出しながら、何となく後ろめたそうに視線を少し彷徨わせ、そのまま言い終わる頃には目を伏せ気味に、歩く地面を見ていた。
「そうっスねぇ」
 また、こうして言われて気付くくらい、自分が関心を持っていなかったのがようやく理解できた。空を見上げて少し言葉を探しても、何を言うべきか、あまり思い当たらない。
「でもジジイも、考えなしに引き取ったんじゃないと思うんスよ」
 それでももし、本当に相応しくないなら、引き取るという話を聞いた時に少しくらい自分も何か感じたはずだと思う。すんなり受け入れたのは、それが一番しっくり居るべき場所に収まっている様に思えたからだろう。
「おれに会いに来た様なモンなのに、あんまり息子っぽい事してやんなかったし……」
 何からしい事を言って露伴に納得してもらえれば、と思ってもごもごと喋っている内に、なんとも恥ずかしい事まで口走っている気がする。
「寂しい思いさせたかもなー、なんて……」
 けれどやっぱり、口をついて出ているんだから、それこそ本音に違いないのかもしれない。

「……君たち、やっぱり親子なんだな」
 ほんの一瞬だけ、露伴が足を止めた。
「きっとジョースターさんも、同じ風に心配してるよ」
 こっちが立ち止まる間もなくすぐまた歩きはじめたから、半歩後ろを歩く露伴の表情をその時だけは捉え損なった。

「もし縁があれば、彼女もきっといつかこの町に戻って来る」
 少し歩幅を緩めて隣に並んだ、その露伴の表情は先ほどの複雑さを見せずに柔らかい微笑が浮かんでいる。
「露伴みたいに?」
 こちらの問いに僅かに目を見開いても、その微笑みは変わらなかった。
「そうさ」
 それなら彼女がこの町に帰って来る日まで、自分もきっとここを守り続けて居よう。
 どこか楽しげに跳ねる彼の声を聞くと、自然にそう思えた。



 2014/06/01 


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