一言   仗露



 いつも露伴は突拍子の無い事ばかりするけれど、その唐突さにも随分自分は慣れてきた方だと思う。つい数日前、旅行に行ってくると言い残して颯爽と立ち去ったのにだって、さほど驚かされはしなかったくらいだ。
 どうせまたあの男の大好きなイタリアにでも行くんだろと勝手に解釈していた。していたけれど、そういえば行き先を告げて行かなかったと気付いたのは数日経ってからだった。
 だからと言って、さほど心配はしていない。随分前、こちらに何も告げずに海外に行って連絡が取れなくなり、酷く焦らされた事があった。その際、家を空ける時は例え国内でも一言声を掛けるよう念を押した経緯があった。あの時に比べれば、いつ帰って来るのかわからなくてもこの町には居ない、という事がわかっているだけでましに思えた。できれば夏休みが終わる前に帰って来て欲しい、とは思うけれど。

「仗助、あんた宛にエアメールきてるわよ」
 数日経った頃、お袋はそう言うとまるでゲームを邪魔する様に、手元にヒラリと封筒を落としてきた。驚いてコースアウトしたのに文句を言っても、どこ吹く風で笑ってソファーに座った。そのままチャンネルを切り替えられて、無理矢理ゲームを止めさせられてしまう。
 口ではお袋に勝てないのはわかりきっているので、唇を尖らせつつ何の気になしに封筒を確認すると、岸辺露伴、と署名があった。
 それまでも何度か、旅先から露伴のエアメールが届いた事がある。どうも露伴なりに、何週間も空けるのを後ろめたく思っているらしい。念押しが効いているんだろう。無事でいる事を報告する為なのか、その中身はいつも大抵シンプルだった。触った厚みで、今回もいつも通りだろうと想像できる。封を開けると案の定、たった一枚ポストカードが入っているだけだった。
 ポストカードは決まってその場所の観光名所の写真で、パリに行った時はエッフェル塔、ローマならコロッセオと随分わかりやすかった。けれど今回のポストカードは、一見してどこか全くわからない。きっとどこかの何とか寺院だろう、というのは想像できる。封筒の消印をまじまじと見て、ようやくスリランカ、という国名にたどり着いた。
「なぁ、スリランカって、何があるっけ」
 世界史を取っておけばよかったかなと少しだけ後悔しながらお袋の方を見やる。
「ん?さぁ……」
 少し考える風にして、遅れてセイロンティーとか?とだけ答えが返ってきた。
 
 あのヨーロッパかぶれが、一体どんな理由でスリランカなんて行く気になったんだろうと思わないでもない。思いつつ、どこら辺の国なのかもよくわからないでいた。何にしたって帰国した時にはあっちからキラキラした目でマシンガンの様に喋ってくれるんだろうから、それを待つ方がきっと早い。
 ポストカードをひっくり返すと、どうもホテルらしい住所と電話番号が小さな文字で印刷されていた。その上にたった一言だけ『ここは暑いよ。』と書かれている。頭の中では、それが露伴の声ではっきり再生された。

 露伴が言うくらいだから、きっと暑い国なんだろう。何となく、自分の頬が緩むのがわかった。
 頭の中で遠い国に想像を馳せる。
 青い空の元で笑う露伴の声が、聞こえる様な気がした。



 2014/06/01 


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