大事   仗露



 朝からこの番組を見ようと前日に決めた、この間の悪さで目覚まし時計が動かなくなった。

「むしろ土曜で良かったじゃあないか……」 
 平日に学校に遅れるよりはマシだろ、と。さほど番組に興味のなかった露伴はあくびを噛み殺しながらそう声を掛けたが、仗助の方はまだ悔しそうに目覚まし時計の側面をペシペシと叩いている。一階の壁掛けの時計はもう昼近い時刻を指し示していた。
「クレイジー・ダイヤモンド使ったけど動かねェっス!」
「じゃあただの電池切れだ」
 何か重大な欠陥でも、と言いた気にわざわざ下から覗き込んでいる仗助に、呆れた声で露伴が返す。なるほど、と仗助が馬鹿正直に顔を上げたのを見て言及する気も失せたらしく、引き出しを漁って買い置きの電池を探し当てた。
「ちゃんと針も合わせろよ」
 放り投げられた乾電池を受け取って、仗助はその場にわざわざしゃがみ込む。テーブルでやれと言い掛けたが、背中を丸めて手の上の目覚まし時計を弄るのがもはや可哀想に思えてくる。露伴も椅子を引いてきて、仗助の傍に座った。

 時計の中の電池を取り出そうと指を掛ける。けれど仗助の太い指先にどうも上手く引っかからずに、撥ね戻ってバチン、バチン、と音を立てた。その音が段々に大きくなるのに一向に乾電池は外れない。
「何か危なっかしいんだよなぁ」
 苛立った露伴が貸せよ、と手を伸ばす。同じく苛立たしげな顔を上げて、仗助は唇を尖らせた。
「だっておれ、手ぇでけえもん」
 手のひらを見せて指先を動かして見せる仗助に、顔を顰めて露伴が口を開いた。けれど何かに気付いた様に一度その動作を止める。それから改めて、仗助の顔を睨めつけた。
「……それだけじゃないだろ、おまえ」
「え?」
 突然の詰問に驚いて、仗助は素っ頓狂な声を上げた。心当たりがあるわけでもないのに、何故かその背中を冷や汗が伝う。
「無意識か?」
 椅子の背凭れに体重を掛けながら、露伴が訝しげに顎を擦った。足を組み換える間も、ジロジロと仗助を睨むのを止めなかった。

「おまえ、壊れても自分で直せるって思ってる節があるだろ」
 指を顔の正面で指され、仗助は一瞬ムッとした表情になった。
「んな事ねぇ……いや、あるかも」
 けれどすぐに、突いて出た反論の言葉尻を窄めた。言われてようやく合点がいったらしく、露伴の視線から逃げる様に顔を背けた。
「直せるに越した事はないがな」
 仗助のその様を見て小さい溜息を吐いたが、露伴は指していた指を一度下げた。けれど今度は椅子から前屈みになって、仗助の胸元をトン、と指先で叩いた。
「ただ、壊し慣れるのは違うだろ」
 露伴の行動に少し驚いて顔を上げていた仗助は、その瞳をより大きく見開く。口を開いて戸惑っている間に、露伴はまた背凭れに身を預けた。

 ほんの数秒、仗助は視線を彷徨わせながら口をモゴモゴさせていた。
「露伴」
「ん?」
「何かゴメンな」
 仗助の挙動からあえて視線を逸らさずに見つめていた露伴は、また呆れた様に一度瞼を閉じた。
「ぼくに謝る事じゃないだろ」
 それでも露伴が睨むのを止めたので緊張が解けたらしく、仗助はいつの間にか力んでいた肩の力を抜いた。その手元から、サッと目覚まし時計を露伴が奪い取る。
「そっかなぁ」
 バチッ、と音を立てながらも、一発で乾電池は外れた。仗助は背中を丸め、反省する犬の様に露伴の手元を見つめている。その姿にチラリと視線を向け、露伴はまた少し呆れた様に目を細めた。

「……ぼくに触る時みたいにすりゃ、良いだけだ」
 ボソリ、と呟かれた言葉を仗助が理解する前に、露伴はそれを誤魔化して目覚まし時計を仗助の胸元に押し付けた。
「ほら、寝室。置いてこい」
「了解っス」
 有無を言わさぬ口調に仗助も慌てて立ち上がり、二階への階段を駆け上がって行く。

 それを見送ってから、露伴はまた何かを誤魔化そうとする様に、小さく一つ、咳払いをした。



 2013/08/05


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