均整   仗露



 暑い暑いと言いながら仗助が先に階段を降りて行った。あいつが先にシャワーを浴びる気かな、としばらくぼんやりしていたが、一向に水音は聞こえてこなかった。

 ヘアバンドの位置を調節しながら一階に降りる。ほんの少しだけ薄暗い中ブラインドの隙間に指をかけると、夏の日差しが容赦なく照りつけているのが見て取れる。熱帯夜を暑苦しく過ごした分、昼まで眠ってしまったらしい。
「うろつくんなら下着くらい履けよ」
 仗助はキッチンで棒立ちしたまま冷凍庫の中身を物色していた。スリッパ以外身に着けているものはないし、髪もぐちゃぐちゃで格好がつかない。
「露伴のエッチ」
 それでも笑って振り向いた仗助の身体が均整の取れた美しい身体だということは見てわかるし、そもそもずっと前から知っている。

「君の裸には見慣れちまったよ」
 仗助がアイスを頬張る。かき氷風のイチゴ味とメロン味の、イチゴの方。あの唇の感触も知り尽くしているんだよなぁ、なんて頭の片隅でぼんやりと想像する。きっと今触れたら冷たくて気持ち良いんだろう。
「飽きた?」
 微塵も不安を感じていない風にそう言って、仗助がアイスの端に垂れかけた滴をべろりと舐め上げた。一口がでかいから融ける間もなくたいらげるかと思っていたけれど、予想以上に今日の気温は高いらしい。

「刺激はあんまりないが」
 仗助の身体を舐める様な視線で観察する。完璧かと問われると、その言葉は当てはまらない気もする。その理由は純粋に若さが充実しているから。まだこの先もこの美しい肉体が、更なる成長を遂げる。そう予感させるエネルギーが、仗助の身体には満ちている。
「魅力はまあ、あるんじゃない?」
 何より堂々としていて見ている方も気持ちが良いのだ。

「君こそどうだい、ぼくの身体にそろそろ飽きたんじゃあないの」
 少し口の端を釣り上げながら近づく。最後の一口を食べ終わった仗助は、怪訝そうにしながらもぼくの肩を抱いた。若さに溢れたその手が酷く熱い。
「薄っぺらで脆くて血の気のない、ぼくの可哀そうな身体にさぁ……」
 言いながら、また妙なことを言ったものだと自分で笑えてくる。これじゃあ、構ってくれと言っている様なものだ。

「……ははっ」
 しばらく黙っていた仗助が笑って腕を回してくる。熱い手と熱い腕と熱い身体。こんなに暑い日だというのに、それが何故か心地良い。
「露伴先生って実はすげぇコンプレックスの塊っスよね」
 ちゅっ、ちゅと、わざとらしい音を立てて仗助がキスをくれる。一度目は想像していた通りひんやりとしたアイスの温度の唇、二度目はぼくの体温で少し温くなったキス。
「あんまおれの大好きなモン、貶さないでね」
 顔を上げて微笑んだ仗助に良い男だな、なんて言ってやるのはなんだか癪で、けれどこの良い男が自分のモノなんだと思うと気分が良い。
「……善処するよ」
 腕を絡み返すと仗助が前屈みになってぼくの視線の高さに合わせてくる。また唇に触れると、もう冷たさは残っていないが人工的なイチゴ味の匂いが微かにした。
「素直で可愛い」
 良い子良い子、とでも言いた気に仗助が頭を撫でてくる。

「……髪型を貶した時みたいになるのは御免だしね」
 お返しに自分も、既に無残な仗助の髪を掻き撫ぜた。



 2013/06/27 


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