名前の親   仗露



「仗助」
 露伴が名前を呼ぶと、仗助はいつも少し驚いた様な顔を露伴に向ける。

「どうして自分で名付けなかったんだ」
 淹れたばかりのコーヒーを片方仗助に手渡し、露伴もソファーに座った。
 テレビには以前露伴が面白くないと一刀両断した芸人が映っている。仗助はカップを受け取りながら、空いている方の手をリモコンに伸ばした。
「何が?」
 チャンネルを回して、露伴の好きそうな海外の文化紹介番組で手を止めた。仗助の思った通り、露伴はその番組にしばし見入ったせいで返事が遅れる。

「……クレイジー・ダイヤモンドの名付け親は空条承太郎なんだろ」
 露伴がそう言って、手元のコーヒーを一口啜った。
「ああ、っスね」
 仗助もそれにつられてカップに口をつける。しかし思ったよりも熱そうで、すぐに唇を離した。

「おまえ、ガキの頃からスタンドを使えたんだろう」
 冷まそうと息を吹きかける仗助を見て、露伴の頬が少し緩んだ。
「んー、別に必要なかったっスからねぇ」
 それに気付かないまま、記憶を探る様に仗助が首を傾げる。スタンドを発現させ、改めてその顔をまじまじと見つめた。
「最初はよくわかんなかったけど……相談する相手も居なかったし」
 今でこそ杜王町にはスタンド使いが溢れているが、自分以外の能力者を見たことなど、幼少期の仗助には勿論経験がなかった。
「それにおれの能力であって、こいつがおれ以外の何かであるわけでも実際ねえっしょ?」
 だから名前を付ける必要を感じなかったと。説明する最中も仗助はコーヒーを啜るに啜れず、両手で包む様にカップを揺らしていた。
「まあ確かにな」
 得心した露伴はまた、コーヒーを口に含む。猫舌をからかってやろうかと一瞬考えていたが、仗助の顔つきが真剣なことに気付き、そのまま次の言葉を待った。

「あと……名前ってスゲー重要じゃねぇっスか。名は体を表すって言うし」
 チラリと窺う様な視線を向けられ、露伴は少し訝しんで眉根を寄せる。仗助は何かを安心した様に、それを見てはにかんだ。
「お袋が直接言ったわけじゃねぇけど」
 ようやく仗助がコーヒーを一口だけ口に含む。砂糖とミルクが混ぜられ、露伴の手元のものよりは随分と甘ったるい味になっている。
「……多分おれの名前って、ジジイの名前にちょっとは関係してると思うんで」
「……ああ」
 言われて、ジョセフ・ジョースターのことを露伴も思い出す。
「恨んでるわけじゃねぇけど、お袋が思い出すたび泣いてたのも事実なんで」
 最初の音が同じというだけではあるが、それを名付けた仗助の母親の心持ちと、そしてそれに勘付いてしまった幼少の仗助の心情。それを想像した露伴も、遣る瀬無くなった。
 名付ける行為すら、仗助にとっては一種の複雑な感情を孕まざるを得ない。それに気づきもしなかった自分を露伴は少し恥じた。

「あー、でも仗助って名前、自分で言うのも何なんですけど、気に入ってるっスよ」
 露伴が黙ってしまったのに気付いて、仗助は努めて、明るい笑顔を作って見せる。
「良い名前っしょ?」
 仗助に気を使わせてしまったのが癪で、露伴はつい顔を背けた。
「……まあね」
 悪くはないと思うけどと素っ気なく返す露伴に、仗助も一瞬困って口を噤む。しかしまたすぐに、何かを思いついた様に微笑んだ。
「……露伴が呼んでくれる時が一番、おれの名前良いなって思うんスよ」

 今度は、露伴の方が驚いた顔で仗助の方を向いた。



 2013/06/24 


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