疑問符   仗露



 治せる物の限度は分るかと、スケッチする手は止めずに問いかける。仗助は最初に指定したポーズのままぼんやりしていたらしく、答えるまでに少し間があった。

「小さい頃から一緒っスからね。大抵の加減はわかるっつーか……露伴は効果の上限、わかんねーの?」
 そう言って身動ぎしないまま、仗助はクレイジー・ダイヤモンドで机の上のペットボトルを持ち上げて口元に運ばせる。自分でモデルを頼んでおいてなんだが、じっとして居るのはガキそのものの様な仗助には苦痛だろうと思っていた。しかし案外自由気ままにスタンドで身の回りのことを行っているところを見ると、本当にガキの頃からスタンドとの生活に馴染んできたんだろうと、漠然と感じさせられた。
「もう成長は見込めないのか」
 例えばつい最近発現したぼくや康一くんのスタンドは、数か月の間に随分な成長を遂げた。仗助が幼い頃のクレイジー・ダイヤモンドももしかすると、直せない物も多かったんじゃないかと少し興味が沸いた。
「んー、多分?」
 首を傾げようとして、モデル中だったことを思い出したらしい。少し頭をもたげて、すぐにビシッと元の姿勢に戻った。妙に素直で従順なところがある。ガキと言うよりはむしろ犬の様で、中々憎めない。

「そうか。そりゃまた、難儀だな」
 クレイジー・ダイヤモンドが少し仗助に重なった。薄らとその向こうは透けて見えるが、視界の邪魔には違いないので、手でしっし、と、どけるよう促した。
「何で?十分便利っしょ」
 仗助はスタンドを引っ込めずに、むしろぼくに近づけさせた。後ろからクレイジー・ダイヤモンドが覗き込んでくる。視界には掛からないが、これはこれで気が散りそうだった。
「ぼくなら自分を治せない能力なんていらないね」
 言いながら、クレイジー・ダイヤモンドの顔に手を押し付ける。視界の端で仗助が少し顔を顰めた。スタンドと本体が、視野を半ば共有しているせいだ。

「あーそれかぁ」
 スタンドがあればカンニングや万引きくらいならし放題だな、なんて勝手に想像する。目の前で屈託なく笑う高校生がそんなことするとは思えないが、イカサマを仕掛けてきた経歴も忘れるわけにはいかない。
「良いじゃん?あんた怪我しても、おれが全部治してやるし」
 今度はもう、気にせずに首を傾げて見せる。こちらが集中力が途切れていると悟ったらしい。
「……今のはおまえの話だろ、クソッタレ」
 鉛筆を置きながら小さくため息を吐く。かわい子ぶるのが憎めない。憎めないのが、妙に憎たらしい。言葉に出来ないことの方が多いなんて、こんな奴、本当に初めてだ。

「え?何?センセー心配してくれてんだ」
 ほぐす様に身体を伸ばす仗助は笑顔を絶やさない。さっきから疑問符ばかりでいい加減イラッとしてきた。
「調子に乗ると本当に鬱陶しいよなぁ、おまえ」
 それとも言葉に出さないで不安にさせる、ぼくの方が悪かったりするんだろうか。
「それ、すげーひでぇっスよ?」
 拗ねた様な口調がやはり、少し憎めないなと思う。

「あ、でも、調子乗ってない時はウザくないんっスね?」
 ……とりあえず、明日はスタンドごとモデルでもさせようか。



 2013/06/15 


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