付き合い   仗露



「仗助、今日は、もう終わりだ」
 顔を近づけようとすると、露伴が荒い息のままでそう言った。手のひらで顎をぐっと押し返されたので、渋々覆いかぶさっていた身体をどけた。

「明日、編集部に呼び出されてるんだ」
 だから早く寝ると呟いて、こちらのことを無視したまま露伴は枕に突っ伏してしまう。自分はまだ満足していないと言いたかったが、脱力した露伴が本当に疲れ切っている様に見えた。
「お仕事っスか」
 自分も隣りに寝転がって、まだ肩で息をしているその肌に触れる。じわりと汗がにじんでいたが、それでもおれより体温は低い。ひたひたとした感触を楽しんでいると、睨みながらその手を払われた。
「ただの立食会だ。付き合いだよ」
 なんとかかんとかの授賞式で、それで東京まで呼び出されるのも何度目かわからない、と。そう愚痴りながら露伴は、苛々した様に顔に貼り付いた髪を掻き上げる。けれど腹這いになっているせいで、またすぐに汗で額に髪が貼り付いてしまう。それが、余計に苛立ちを増長させている様に見えた。
「これも仕事の内、なんだろうけどね」
 人付き合いが嫌いでこの仕事を選んだ節もあると露伴の口から聞かされたことがあった。だからアシスタントを雇う気もないし、そもそも雇うほど仕事も遅くないし、と。

「ああクソッ、汗で気持ち悪い」
 悪態を吐いて、露伴は枕にグリグリと頭を擦り付けた。少しは汗を拭えたかもしれないが、余計髪の毛が貼り付いていて、不快そうに顔を歪めている。思わず少し笑いながら、手のひらでその髪を掻き上げてやった。
「シャワー浴びて寝れば良いじゃん」
 自分の髪はセットしたままで、少し崩れた程度だった。最初から眠り入る前にシャワーを借りようとは思っていた。
「シャワーは朝だ。それよりも寝たい」
 また露伴は枕に顔を埋める。
「久しぶりで……疲れた」
 余程眠いらしい。露伴は目を瞑ってまた、身体を脱力させた。この調子なら本当に寝かせた方が良いなぁなんてぼんやり思ったところで、言葉に引っかかった。

「露伴、あんま最近遊んでねぇの」
 今の関係に至って随分経つ。残念ながら恋人として認めて貰えたわけではない。遊ぶ相手にならまあ良いかな、なんて冗談の様な口調で言われたのを逃さずに、そのまま体の関係に持ち込んだに過ぎない。
「最近ねぇ」
 顔を上げて薄ら目を開けて、露伴はほとんど寝ぼけた様な声を出す。こうして度々押しかけても受け入れてくれているんだから、セフレの内の一人にしか数えられていなくても大きな進歩だと、いつも自分を慰めてきていた。
「おまえ以外とはしてないな」
「えっ」
 だからこそ、ぽつりと露伴が呟いた言葉に思わず声が弾んでしまった。

「……別に操立てとかじゃあないぞ」
 露伴はこちらの考えを読み取った様で、少し怪訝そうに顔を顰めてそう付け加えた。
「っスよねェ」
 ガクリと項垂れると、露伴が面倒臭そうに溜息を吐いた。耳を摘まんで引っ張られて、仕方なく顔を上げる。
「おまえほど体力も暇も持て余してないだけだ」
「そんなことわざわざ言わなくても良いっスよ……」
 本当に、目を真っ直ぐに見つめて言うことではないだろうに。顔を背けようとすると、また露伴が耳を引っ張ってそれを静止した。
「でもな。おまえとが一番、気楽だ」

 パッと手を放して露伴はまたベッドに寝転がる。おまえも早く寝ろと、そう言って反対側を向いてしまった。
「なぁ露伴」
「今日はもう終いだって。さっき言っただろ」
 露伴は手をひらひらさせておれをあしらう。そうじゃなくてと言いかけて、自分が言おうとしたことの恥ずかしさにまた頬が熱を持った。

 じゃあお付き合いして下さい、なんて、言うには今更にも程がある。



 2013/06/12 


SStop








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -