恋人同士   仗露



 ぼくらの関係に恋人同士という名前が付いたところで何が変わるんだろう。

「露伴先生、今日暇?」
 数日ぶりに訪ねて来た仗助はいつも通りの髪型にいつも通りの学ランで、いつも通り学校の帰りに立ち寄ったのだということが一目見ただけでわかった。
 
「彼女はどうした」
 ドアを開け放すだけで、仗助はぼくが迎え入れているという意思を汲み取り、家の中へと足を踏み入れる。


 身体を重ねるのに深い意味なんてないと、最初に言ったのはぼくの方だった。
 男同士で結婚するわけでも子供ができるわけでもないんだから、快楽以外の理由を探すのは不毛だと。
「あー、別れたんスよ。だから来たんスけど」
 だから別に仗助が彼女を作っても、彼女を優先してぼくの家に来るのを止めても構わなかった。

 慣れた動作でソファーに陣取る仗助を見ていたって別に何の感慨もわかないんだから、やっぱりぼくにとっては仗助も仗助の彼女も気に掛かる存在ではないのかもしれない。
 向かいに座りながら視線を合わすと、仗助は口元の笑みを深くした。

「昨日彼女んち連れてかれてさぁ。親居ないからって」
 ありがちな話でしょ、と言うので、そうだな、と返す。仗助がモテるのは周知の事実なので、その本人が言うのなら本当にありがちな話なんだろう。
「まあそれは良いんだけど、おれはお袋帰ってくるからさ。帰ろうと思って服着て髪整えてたんスよ」
 仗助がわざわざ身振り手振りを加えて話す。
「そしたら、帰らないで〜とか言って。整えたばっかりの髪、こう、ぐちゃっとされて」
 学校でもこの調子なのだろうかと想像すると少し愉快だった。

「何かそれで、冷めちまって」
 いかにも白けました、という表情を作る仗助に思わず笑ってしまう。
「それだけかよ」
 たった数日で捨てられたのは可哀そうかもしれない。けれど仗助の髪に文字通り触れてしまったのならば仕方ないとも思った。
「おれにしては我慢したんスけどねェ」
 仗助が唇を尖らせてソファーに身を預ける。しかしすぐに反動をつけ上体を起こし、こちらに人懐っこい笑みを向けた。
「露伴はそーいうことしねぇし」

 別に仗助が彼女を作ろうが彼女と子供を作ろうが、それから家庭を作ろうが、本当にぼくは構わないはずで。

「最初にあれだけ殴られればな」
 わざとそっけないフリをすると、それに合わせるように仗助もわざとらしい困り顔を作る。
「それは言いっこなしっスよ、先生」
 言いながら仗助は立ち上がり、机を回り込んで隣に腰をおろしてきた。
「おれのことちゃんと尊重してくれるからセンセーのこと、超好きよ」
 ぼくはこういう時の仗助の笑顔をずるい笑顔だと、そう思う。
 
 昨日まで彼女だった女を抱いていただろう、仗助の手が触れてくる。
 それを嫌だと言うつもりはない。恋人同士なら兎も角、身体だけの関係のぼくがとやかく言うのは筋違いというものだろう。

 けれど。
 恋人同士だったなら、なんて思考をしてしまう時点で、本当は気になって仕方ないんだと自分でも思う。
 思うだけならまだいい。それを仗助に悟られるなんて、ぼくには耐えられそうにない。

「ああそう」
 だから、表情を変えないようにしながら視線をそらす。
「冷たいの」
 仗助は、そう言いながらも楽しげに手を這わせてくる。ぼくが拒否しないのを最初から知っているような振る舞いをしてくる。
「でもそこが好き」

 この関係に恋人の名前がついたところで、仗助の持つ余裕をぼくが壊すことはきっとできない。
「……言ってろ」

 だってもう、虚勢を張ることもままならない。




 2013/03/08 


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