Commitment   琢露・仗露 *『The Book』で if ネタ



※『Another Book』の続きになります。今回の話からCP要素が入ってきてます。





 岸辺露伴がベッドの上で、息も絶え絶えに喘いでいるのをしり目に。蓮見琢馬は、玄関から取ってきた夕刊の新聞を膝の上に広げた。

 民家一棟が全焼し、焼け跡から家主の刺殺死体が見つかった記事、『茨の館』に不法侵入の形跡が見つかった記事。それから行方不明者として挙げられた双葉千帆という名前、その隣に並んでいる琢馬自身の名前。

 双葉千帆が死んだりせず、どこかに逃げのびているらしいという事実に、琢馬は言い様のない安堵を感じた。復讐に利用はしたが、妹兼恋人、あるいは慕ってくる後輩に対して、少なからず情があったのだと今更実感した。
 世間からすれば、学生のカップルが親の反対を押し切り、殺人まで犯して駆け落ちしたようにでも見えるのだろうか。一昼夜明けてみて、行方不明者の片割れが杜王町に残り、しかも町一番の有名漫画家の家に匿われているなどとは誰も想像しないのだろう。

 琢馬が暇を持て余してテレビ欄まで眺めはじめた頃、玄関から激しい破壊音が聞こえ、階段を駆け上がる足音が寝室に近づいてきた。

「露伴っ」
 血相を変えて駆け込んで来たのは、先ほど露伴が電話で呼び出した東方仗助だった。
 ベッドの端に涼しい顔で座る琢馬を見て一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐにベッドに転がる露伴の元に駆け寄った。
 露伴は苦しげに呻いていたが、仗助がスタンドを発動させて触れた瞬間、落ち着いた呼吸を取り戻した。しばらくはシーツに顔を埋めていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、仗助の方を睨んだ。
 
「っ……来るのが遅いんだよ、スカタン」
「急いで来たっつーの!」
 感謝の一言もない露伴に、仗助の方も不安げだった顔を怒りの籠った表情に変化させる。その二人を無視するように、琢馬はまた新聞のページを捲った。

 昨晩『茨の館』で負傷した露伴を治し、また、『ヘブンズ・ドアー』で昏睡した琢馬を露伴の家まで担いで来たのも、この東方仗助だった。
 自宅に匿うと露伴が言ったのに、仗助も最初は渋った。しかし、それなら一人でも連れ帰ると言い出す露伴の頑なさに根負けして、結局ほとんどの道程で仗助が背負うことになった。
 
 琢馬が露伴の家に居ることは、この三人しか知らないはずだ。琢馬を連れ帰ってすぐに訪ねて来た康一たちに、露伴が何食わぬ顔で彼は逃げたよ、と言ったのを、横で聞いていた仗助はなぜか否定できずそのまま話を合わせてしまった。
 
「……あんたたち、ベッドで、何やってて怪我したんだよ」
 こいつには興味がわいた、と露伴が言うのにも、仗助は良い顔をしなかった。勿論それが琢馬のスタンド能力に向けたものだとは分かっていたが。
 露伴があれ程苦しむまで、しかもベッドの上で、二人が何を行っていたのか。仗助は良からぬ想像すらしてしまう。

「何を想像してるんだよ、マセガキ」
 仗助のいぶかしげな顔を、露伴は鼻で笑って一蹴した。
「ぼくのスタンドで彼を本にしながら『本』の方と読み比べしてただけだ」
「注意する前に、先生が車に轢かれた時の描写を『本』で読んでしまって……君を呼んだ」

 琢馬は『岸辺露伴には攻撃できない』と書き込まれているが、露伴が自ら『本』を読んで怪我をするのは攻撃の内に入らない。
 仗助はチラッとまた琢馬に向けたが、すぐに露伴に向き直った。

「もう、こいつのスタンドで遊んでて怪我しても治してやんねぇっスからね!」
「チッ、ケチな野郎だな」

 露伴は胡坐に片肘をついて顔をしかめた。二人の事情を知らない琢馬から見ても、岸辺露伴という男の行動パターンの方が明らかにおかしいのがよく分った。
 ぼくの興味を満たす限りこの家に匿ってやると、露伴にそう言われた時、琢馬もまさか殺そうとした相手がそんなことを言い出すとは思ってもみなかった。

「これからは怪我せずに君のスタンドを活用しなきゃならないな」
 露伴が腕を伸ばして、琢馬の髪をぐしゃりと撫でた。既に露伴にとって琢馬は匿う同居人であり、敵味方の議論など念頭にないらしかった。
 その様を見て、やはり仗助は嫌そうな顔をする。
「……やっぱ仲良過ぎんじゃねぇの、あんたたち」
 よくよく考えれば、普通そんなところは言及しないかもしれない。しかし仗助は、親しげに琢馬と接する露伴を目の当たりにしてみて、どうも冷静でいられなかった。
「どこかの不良と違って、話は結構合うけどね」
 そんな仗助を挑発するように、露伴も言葉を返した。
 また仗助の顔が強張り、少しの沈黙が流れる。

 一触即発、と言って良い状況にも思えたが、琢馬は特に顔色を変えることはなかった。内心がどうであれ、元々表情豊かな方ではなかったが。
 琢馬には仗助から露伴への、好意としての意識の向け方が手に取るようにわかったし、露伴がそれに気付きながらもかわしているのだというのも何となく理解した。
 なるべくしてそうなっているらしい二人の関係性に、部外者そのものの自身が口を出すのも妙な話だ、と。琢馬はただ、表情を変えずに見守っていた。

「そうだ、今仗助が言ってたみたいにセックスしてみようか」
 しかし、急に顔を向けて言い放った露伴のセリフに、琢馬も思わず、は?と、口を半開きにした。
「君の『本』はリアルタイムで記述が増えていくんだろう?」
 露伴は身を乗り出して、琢馬の頭をもう一度撫でた。その瞳が興味津々、とばかりに輝いていて、琢馬は何も言えずに固まる。
「突っ込まれながらその描写を読んだら、自分で自分を犯す感覚を同時に知れるんじゃないかな」
 そんな体験普通できないだろ、と。あっけらかんと言ってみせる露伴を、琢馬も仗助も、しばらくポカンとした顔で眺めるしかなかった。

「っ露伴、あんたさぁ!やってることわかってんのか?犯罪者匿ってんだぞ!」
 しかし、ハッと気付いた風に仗助が頭を数度振り、ようやく声を荒立てた。
「犯罪者ねェ。君の言うところの犯罪って……つまり、織笠花恵を殺したってことだろ?」
 仗助の言葉にピクリ、と反応した露伴は、琢馬の頭から手を放し、もう一度仗助に向き直った。

「スタンドで行われた犯罪は立証できない。自首したって説明がいかないしな。……君、彼をどうしたいんだい?」
「それは……」
 言われると、確かにどうすれば良いのか仗助にも上手い判断がつかなかった。例えば音石明のように窃盗罪があればその罪で投獄できたが、蓮見琢馬にはそれがない。
 昨晩の段階でなら滅多殴りにしてしまうところだったが、一晩置いたせいで頭も少し冷え、今から殴らせろなどと言う気も起きなかった。

「私怨にしたって母親の件はおまえにも非があるだろ。自分宛の手紙を母親に開けさせたのはおまえだ」
 母親のことを出され、仗助は一瞬酷く険しい表情になった。しかし確かに自分に落ち度があるのもわかっていた。拳を、ただギュッと強く握りしめる。

「吉良の時だって、事故死でさえなければ空条承太郎が手を下してたかもしれないな。それは殺人じゃあないのか?」

 法で裁ける相手ではないと、その場に居合わせていた露伴は気休めにそう言った。しかし、誰の手も汚すことなく問題を解決できたのは偶然だとも思っていた。
 生きてさえいれば吉良は必ず隙を見つけて逃げ出し、また同じように犯罪に手を染めただろう。承太郎でなくとも、可能ならば自分が息の根を止めていた。露伴は吉良の事件を思い返す度、そう考えた。

「それともアンジェロや『エニグマの本』みたいに、殺さず罰したいのか?」
 仗助の逆鱗に触れた者の末路も、いくつか露伴は康一から仕入れていた。アンジェロに関しては、死ぬよりも残酷ではあるが、それなりに評価もしていた。
「特に『エニグマ』の彼……宮本輝之輔って言うけど、おまえは知らないだろうな。彼は殺人すら犯してないぜ」
 仗助の母親を人質に取ったとは言え、スタンド使いになったばかりだったらしい。言うなれば吉良の親父に利用されただけの、ただの少年だった。そういった事実も、露伴は既に調べ上げていた。

「知ってるか?あの本ね、図書館から盗まれたんだよ。珍しい本だからな」
 それを聞いて仗助の顔が少し青ざめた。確かに痛めつけはしたが、心から反省した末には戻してやろうとでも思っていたのかもしれない。
「きっと彼、もう二度と家族の元には帰れないんだろうなぁ。可哀そうに」
 家族から捜索願が出されていることも、露伴は知っていた。その上で、彼は仗助の精神を刺激するような言葉ばかり選んでいた。

「嘘だと思うなら図書館に行ってみれば良いんじゃあないか?ぼくたちの不法侵入のせいで、ちょっと今慌ただしいけどさあ」
「……くそっ!」
 踵を返して、寝室を後にした仗助を見送る。階段を荒々しく駆け下りる音がして、バタン、と扉の閉まる音も聞こえた。丁寧に壊した玄関は直して出て行ったらしい。

「結構酷いな、あんた」
 しばらく口を噤んでいた琢馬は、広げていた新聞を丁寧に折り畳みながら呟いた。
「ん?」
 仗助が出ていった後も耳を澄ませていた露伴は、琢馬が言ったことを聞き取れなかったらしい。
「……『エニグマ』は先生が盗んだんだろ」
 仗助に対するわざとらしい態度を指摘しようかとも考えたが、結局、最初に言及しようとした方に焦点を合わせた。

 露伴の家に担ぎ込まれようやく意識を回復させた頃、琢馬は彼がどこかに隠し持っていたらしいあの本を、すばやく仗助に見つからないように他の本に紛れさせるのを見ていた。
 先ほど露伴が苦しんでいる間に、一階へ新聞を取りに行くついでに本の山を少しさぐったが、それらしいものは見当たらなくなってた。資料室があると聞いているから、知らぬ間にそちらに移したのだろう。

「気味悪がられて処分されるよりはぼくの資料になった方がマシだろ。それより……」
 あっさりとした口調でそう言い、露伴はまた琢馬の髪を撫でた。そのままぐいっと、自分の方へ顔を近づけさせる。

「さっき言ってたの、試そうぜ」
 どこか皮肉げな露伴の表情に、琢馬も思わず眉根を寄せた。
「頭おかしいんじゃないのか、あんた」
「何事も好奇心は大事だろう。悪いようにはしないさ」
 笑いながら馬乗りになってくる露伴を見上げて、この分だと東方仗助はこの先も苦労するだろうと、琢馬は他人の心配を思わずしてしまった。

 自分も『エニグマの本』と同じく、岸辺露伴に持ち帰られた資料に過ぎないのだろうと観念して。
 琢馬はされるがままに、両目を瞑った。



 2013/02/18 


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