並の不幸   仗露



 理由なんて訊けない。
 大人には大人の事情があって、しかも露伴はおれみたいなガキには理解できないようなことで悩むような人間だから。


「おまえはぼくを可哀そうだって言うけどね」

 泣き疲れて寝ていたはずの露伴がいつの間にか目を覚ましていた。
 抱き寄せていた腕の力を少し抜く。
 けれど、露伴は余計おれの胸元に鼻先を埋めてきて、顔を上げようとはしなかった。

 0時過ぎに呼び出されて、もう5時間は経っている。
 今日もおれは学校があるけれど、そんなことこいつは気にもかけない。
 それを悲しいとは思わない。ただ身体だけの付き合いではない、もっと重要なポジションであることを実感できるのは、こうしてただ時間を過ごす時だけだから。

 露伴がこんなにも不安になることって、漫画のことだろうか、それとも付随する別のことだろうか。
 何にしたって、きっとおれには一切関係がないことだ。
 だから、理由なんて訊けない。

 彼の頬を親指で撫でると、涙が乾いてざらりとした感触が伝わってきた。
 大人なのにこんなに泣くなんて、この男くらいじゃないかとも思う。

 おれはいつ、露伴を可哀そうだと言ったのだろう。
 記憶にないほどずっと昔なのだろうか。それとも露伴の記憶違いで、おれが露伴を可哀そうだと思っている、と、露伴は思っているのだろうか。

「ぼくにはぼくの不幸があって」

 露伴はいつもの彼と違う、途切れ途切れの拙い声を出す。
 間を置く呼吸の音さえ、聞こえるほど近いはずなのに。視線が合わないのと相まって、露伴の言葉が妙にそっけなく聞こえた。

 もうじき夜が明ける。
 そしたらおれは、毛布ごと抱き締めた露伴を手放さなければならない。
 明けない夜なんてないのに、それがおれはいつも口惜しい。

「君には君の、不幸がある。それだけだよ」

 そう言い切って、また、露伴がおれの胸に顔をすり寄せた。
 それを愛しく思う一方で、突き放すような言葉が酷く耳に残った。

 おれの不幸ってなんなのだろう。
 こうして露伴がおれを頼ってくれるのは幸福なんだろうか、それとも不幸なんだろうか。

 緩めていた腕の力を、もう一度強める。
 一瞬露伴の身体が強張ったが、またすぐに力を抜いたのが伝わってきた。  


 おれの幸福も不幸も、全ての根源が彼であればいい。
 そう思ってしまうのが幸か不幸なのか、やはりおれにはわからないけれど。



 2013/02/10 


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