知らない温度 承&露+仗 *死ネタ ※『いきたい』の続きになります。 あまり考えないようにしていたが、承太郎がすまないと思うように、ぼくは鈴美のことでそれなりに参っていた。 ほとんど記憶にないとは言え幼い頃、自分を逃がして殺されてしまったひと。彼女は望んで事件の解決を求めたが、それは同時に彼女がこの世から消えることにもつながった。 ぼくは間接的に二度も彼女の死に触れてしまった。彼女と出会う前、いや、杜王町に来る以前には持ち合わせなかった感情が、彼女がこの町を最後に立ち去る頃には芽吹いていた。 空条承太郎、あなたもその場に居ただろう。ぼくが心を溶かすのを見ていただろう。 傷ついたままのぼくは、読んだ承太郎の中身を頭の中で反芻する内に鈴美と同じような感情を抱いてしまっていた。 また一人、今度はあなたがこの町を去っていくのだ。元々アメリカに帰るはずの男だ、読みさえしなければ何にも思いやしなかったのに。 接点ならあるんだ、悲しむ、理由なら。 この町を傷つけたあの事件を知る数少ないスタンド使いのあなた。 鈴美とぼくのことを知っている、あなた。 「露伴、良かった。目ぇ覚めたんスね」 覗き込まれて一瞬、何が起こったのかわからなかった。 「……じょ、すけ」 「外傷はもともとあんまなかったっスけど、小さい擦り傷とかはおれが治しといたんで」 首を曲げるのも辛かった。仗助の座る折り畳みの椅子、自分から伸びたチューブや置かれた無機質な備品から、自分が病院か何かのベッドに寝かされているらしいと理解する。 「あんた、三日も昏睡状態だったんスよ」 いつから三日だろう。そもそも何故自分はここに寝ていて、クソッタレの仗助がぼくを見舞っているのだろうか。 「康一たちにも伝えときますけど、まあ回復してから来るように言っとく。……承太郎さんの葬儀、は、もう済んだっス」 ああそうだ。ぼくはあの男の死に際に立ち会って、そのまま波に一緒に飲み込まれたのだ。ぼくの見開いた目に気付いたようで、仗助は椅子から少し腰を浮かせた。 「あんたが承太郎さんを引っぱって浜まで上げてくれてたおかげで、すぐ見つかったんスよ」 ぼくが彼を?何を言っているのかわからない。そうだ、彼は遺言状を残していたはずだ。そこに余計なことが書いてあったのかもしれない。 「あんたに非がないのはおれ達みんなわかってっから。だからしばらく安静にしといてくださいよ」 仗助は立ち上がる。ぼくは何がなんだかわからないまま、それを眺めるしかできない。 「おれの甥が……どうも、ご迷惑をお掛けしました」 感情の読めない顔を伏せるように、仗助が一礼をした。 やめろ、どうしてそんなことを言える。こんな時に限って、何故そんなに物分りが良いんだ。どうして、ぼくを非難してくれないんだ。 叫びたいのに、喉がヒュウと鳴って、声が出なかった。 仗助が帰宅した病室で、ぼくは夢とも妄想ともつかないまどろみの中空条承太郎に再会した。 また彼はすまないと呟く。ぼくは声がどうにも出ないので、右手を上げて握手を求めた。 彼の手はやはり冷たい。ぼくが知っている彼の温度は、本当にこれだけだったから仕方ない。 少しでもぼくの熱が伝わって、彼が体温を取り戻してくれればいいのに。なんて、馬鹿げた思いだろう。 ぼくの手は彼より随分小さくて、両手をもってしても片方の手を包んであげることすらできないというのに。 2013/01/20 |