絡まり 仗露 気持ち良く酔っていると電話が鳴った。 取ろうかとソファーから立ち上がりかけて、それから柱時計をチラリと見る。いつもかかってくるやつだと気付いて、結局歩いて受話器を取りに行くのが面倒になってやめた。 「露伴」 長い瞬き一回、と思ったつもりが、案の定寝入りかけていたらしい。目をパチリと開けると仗助の顔が間近にあった。 「居ないのかと思ったけど」 するりと潜り込む様に、仗助が隣に密着して座った。それから電話の方を指差して、少しだけからかう様に微笑んで見せる。 「どうせお前だと思って出なかったのさ」 もっとも今から行っても良いかと、家に居るかの確認に電話をしているんだろうから、出なければ意味がないかもしれない。けれどどっちにしたって仗助は訪ねて来るんだから、こいつからすると意味なんてなくて良いのかもしれない。 寝ていた所を急に起こされて驚いたのか、少しだけ自分の心音が五月蠅かった。まだ酔いが残っているせいもあるんだろう。ソファーに背を預けてぼんやりした顔のままでいると、仗助が自然な動きで腕を絡ませて距離を詰めてくる。覗き込まれるとまた顔が近くて、改めて濃い顔立ちだな、なんてぼんやりと感じていた。 「何か、美味そうな匂い」 それがニヤッと笑うと途端に甘い顔に見えてくる。服の上から首筋を撫でられてゾワッとした。 「外で食ってきたんだ、今夜は」 急に目が覚めた心地になってソファーに座り直そうとすると、仗助はそれを待っていたみたいに更にぼくの上に覆い被さってきた。 「トニオさんの所はここ暫く予約で一杯らしいな」 行こうとしたら席がないと言われたと説明しながら、仗助のかける体重でズルズルとソファーから背が滑って行く。言及せずにいると、仗助は嬉しそうな顔をして服の胸元に鼻先を擦り付けてきた。 「ワインとチキンはわかる」 「犬みたいだな」 思わず笑って正解だよ、と顔をグリグリ撫でるとまた嬉しそうに目を細めた。そのままソファーの上でほとんど寝転がる形になって、いい加減床に落ちると言い掛けたが、足を器用に絡められてそれを阻止された。 「なら、お世話してよ」 酔っぱらっているこちらに合わせているのかもしれない。仗助が甘えて媚びる様な声でそう笑いかけてくるのがやけに可愛く見えて、全部計算だと言うのも勿体なく思えた。 「飼うなんて言ってないだろ?」 足を絡ませ返して、少し無理をして踵で腰の辺りを蹴る。仗助がわざとらしく背を伸ばして痛そうに顔を顰めるのが可笑しくて笑うと、足首を掴まれて靴を脱がされた。ポイポイと放られた靴が向かいのソファーに綺麗に落ちて、またつい笑ってしまう。 「どうせ犬を飼うなら子犬から育てて……しっかり仕込まないと」 それから今度は手首を掴まれて、ようやく自分が帰って来たまま腕時計をつけっぱなしなのに気付いた。一度言葉を切って丁寧に外されるのを眺めていると、仗助も何が可笑しかったのか、机の上に置きながらニヤッと微笑んだ。 「まだおれ、16歳だぜ。仕込み甲斐あると思うけど」 改めて覆い被さってきた仗助が、言いながら次は上着の一番上からボタンを外していく。それに一応抵抗しようかと思って手のひらを向けると、極上の笑みのまま指を絡ませられて結局その気をなくしてしまう。 「もう諦めたよ」 わざと溜息を吐いて見せても絡ませ返した時点で、きっと意味なんてない。 2013/12/26 |