見計らい   仗露



 往来の中、下校中の学生たちはいたる所でうろつき回っていた。

「康一くんは一緒じゃあないのかい」
 開口一番に問われても、仗助は慣れた調子で笑って露伴の隣りに並んだ。
「ちょうどそこの角で別れた所っスよ」
 言いながらチラリと背後を振り返って指差すと、露伴も足を止めずに首だけ曲げて、その方向に視線を向けた。

「読み切りの感想を聞こうと思ってたんだけど、中々タイミングが合わなくてね」
 向き直ってあれは傑作だった、と露伴が自信満々に言い切るのにも、仗助はやはり慣れた風に笑ったまま聞き流した。それは露伴の漫画を自分は読んでいないからという部分もあったが、ほぼ毎週傑作を描いたと高揚している露伴の相手をしている内に実際慣れたせいでもあった。

「読んでないかもよ」
「読んでるさ」
 仗助がからかう口調で言うと、露伴は気に障ったらしく、睨みながらバッサリとまた言い切って見せた。それから間髪入れず脛を蹴られ、小さく悲鳴を上げて仗助は一瞬立ち止まった。
「億泰もアンタの漫画読みはじめたらしいぜ。面白れぇってさ」
 仗助は先に歩いて行こうとする露伴の隣に早歩きでまた並んで、今度は機嫌を取る様に別の友人の名前を出した。
「……あいつじゃ大した感想もなさそうだし、興味ないな」
 康一の時と違って本気で興味がなさそうにツンとした態度をするのに仗助は苦笑してしまう。けれど確かに康一と違って丁寧な感想は言えなさそうだな、と頭の隅で勝手に納得した。
「次会ったらサイン貰うとか言ってたっスよ」
 サイン用にと、鞄に単行本まで入れていた事を話すと、露伴も悪い気はしなかったらしく、ふぅん、と短く返事をしつつも少し嬉しそうな顔をしたのが仗助からは見て取れた。

「億泰とは何で一緒じゃないんだ?」
 しばらく歩いてからふと気づいた様に言って、露伴は仗助の顔を見上げた。普段から仗助と億泰は二人でつるんでいたし、家も特に近かった。
「あー、アイツ言わねェけど、今日は墓参りに行ってる日じゃねぇかな」
 仗助は一瞬言うか迷った様だが、すぐに少しだけ困った様に笑って、来た道とは全く違う方向を指差した。
「……そうか」
 言われて、露伴は虹村形兆の顔を思い出そうとしたが、矢で刺された短い間しか会わず仕舞いだったせいで、ぼんやりとしか思い出せなかった。それは仗助もほとんど同じらしく、少しだけ気まずそうな顔のままでいた。

「先生、あんま億泰と話さないっスよね」
 また、仗助は取り繕う様に話を転じさせた。露伴と億泰が会する時は大抵仗助や康一が一緒に居るが、そういう場でも露伴と億泰が個人的に話す所は仗助もほとんど見た記憶がなかった。
「タイミングが合わないんだよな、あいつとも」
 他の連中とも生活時間帯が合わないらしく中々遭遇しないらしい。別に会わなくても良いけれど、と言いながらも、露伴はどこかつまらなさそうだった。
 
「君とはやたらと会うのにな」
 それから、露伴は心底不思議そうにそう呟いた。

 自分は露伴に会えるようタイミングを見計らっているのだと。
 仗助は気恥ずかしかったらしく、それを教える事が出来なかった。



 2013/12/18 


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