写真の中   仗露



 何に夢中になっているのかと思って背後から覗き見ると、古めかしい写真がページ一杯に並べてあった。

「何スかそれ」
「アルバムだ」
 露伴がさも当然と言う口調で言うので、仗助もそりゃあアルバムだろうけど、と口に出しかける。しかし、自身もソファーに座って改めて覗き込んだ時、それが見知った人物の写真だとようやく気付いた。
「ジョースターさんから借りて来たんだよ」
 見ていたページに指を挟んで、露伴がチラリと仗助にアルバムの表紙を見せる。確かにそこには筆記体でジョセフ・ジョースターの名前が箔押しされていた。
「あんたら仲良すぎっしょ……」
 拗ねた口調で文句を言って、仗助は唇を尖らせた。実の父親とは言え、十六年の間に生まれた微妙な距離を詰め切る事は出来ていない。それなのに露伴の方は知らない間に彼と親しくなっていた。それが仗助は歯痒い気もしたし、どちらに対して嫉妬を感じているのか、イマイチ良くわからないままでいた。
「仲良くして何が悪いんだい?」
 露伴はまた事も無げに言って、少し馬鹿にした様に鼻で笑って見せた。けれど片手で仗助の頬をグリッ、と撫でまわして、機嫌を直せと言いた気に首を僅かに傾けて見せた。
 それを見て素直に機嫌を直した仗助も手を伸ばし、ベルベットの貼られたアルバムの表紙を指先でなぞる。名前の下の年号は、おそらく中の写真が撮られた時期を表しているのだろう。西暦で書かれたその年の中には、仗助が生まれた年も含まれていた。
 もしも浮気相手の子でなければ自分もこのアルバムの中に載っていたかもしれない、と。仗助は口に出しかけて、またそれを飲み込んだ。何も思わないわけではないが、たいして気にしている事でもない。むしろこんな事を言って露伴に気を使わせる方が、今の仗助にとっては煩わしい事に違いなかった。

 仗助の様子を見て、露伴も一瞬何か言いかけた。けれど結局何も言わずにおいた。指を挟んでいたページを開きなおして仗助に半分を持たせ、今度は一緒に覗きこんだ。
「ほら、見てみろよ。承太郎さんも若いぜ」
 少しだけいつもより明るい口調を作って、露伴はジョセフではなくその隣に写っていた承太郎を指差した。
「うわっ、マジ若い」
 仗助も言われてそれに気づいたらしく、写真をまじまじと眺めはじめた。
 不動産王の名に見合う程度に交友は広かったらしく、ジョセフのアルバムには彼以外にも他の人物が親しげに写っているのがほとんどだった。日本人の姿はほとんどない中であっても、承太郎の姿は自然と紛れ込んでいた。
「でもあんま変わって見えねぇっスよね」
 学ラン姿という事は十代だろうが、貫録はこの頃からあった風に見える。その悠然とした姿を隣に写る落ち着きの無さそうな笑顔の父親の姿と見比べて、改めて尊敬できる甥だと仗助は感心したらしかった。
 露伴はその仗助の横顔を一瞬チラリと見て、またアルバムに視線を戻した。それからすぐに、今度は仗助の顎をグイッと掴んだ。

「仗助。ちょっとこっち向け」
 もう向かせてると言いたかったが、顎を掴まれて上手く喋れない。仗助は驚いた顔で露伴を見つめたが、露伴は向かせておきながらアルバムの写真をしげしげと眺めていた。
「ホントに似てるなぁお前……お前も年取ったらこうなるのか?」
 顎を掴んでグルグル角度を変えさせながら、露伴はジョセフの写真と仗助の顔を代わる代わる見比べはじめた。パラパラとページを捲りながら一々見比べるのに、仗助は暫く黙ってされるがままになって居たが、ようやく最後のページで露伴の手から逃げ出した。
「……不吉な事言うなよ」
 掴まれたところを擦りながらまた唇を尖らせると、露伴はさも不思議そうに首を小さく傾げて見せた。
「何が不吉なんだい?格好良いじゃあないか、ジョースターさん」
「……え、格好良い?」
 仗助がまた驚いた顔で固まったのを無視して、露伴は一度アルバムを閉じたと思うとひっくり返し、最初の方のページを開く。大部分の写真がセピア色で、まだ髭も蓄えていない青年期のジョセフの姿が多く残されていた。

「君のアルバムも今度見せなよ。見比べるから」
 チラリ、とまた露伴が仗助の顔を見詰めた。今度は掴む事はせずに、なぞる様に仗助の顎に指を添えてからかう様に笑って見せた。
 仗助はしばらく目を瞬かせたままで居たが、すぐに自身も挑発に乗って、柔く笑みを返した。
「……露伴が先に見せてくれたら、良いっスよ?」



 2013/11/29 


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