面映ゆさ   仗露



 普段は中々敏いガキのクセして、妙に無神経な言葉を吐く事が稀にある。いい加減なのかもしれないし、逆に複雑な精神構造ゆえなのかもしれない。仗助のちぐはぐさを端的に表している様に見える。そのちぐはぐさを、好きじゃないが嫌いと言い切るのも何かが違う、そんな自分の心理状態もまるでちぐはぐに思えた。
「露伴さぁ、そーやって睨むの止めてくんない?」
 もしかすると相性云々に問題があるだけなのかもしれない。兎に角、仗助の言動が一々自分の神経を逆撫でしてくるのは確かだ。例えば毎回事前の連絡なしに訪ねて来るのも、訪ねて来ておいて用事がないのも、顔を見に来ただけだとさらっと言ってみせるのも。全部が全部、ぼくの精神には妙に堪えた。

「……睨まれる正当な理由があるのにか?いつも要求だけは一丁前だな」
 言いながら、自然と眉間に皺が寄ってしまう。自分も、睨んでいるつもりはなかったと素直に言えばさほど話は拗れないんだろうとも思う。ただそう素直に応対する事すら癪に感じてしまうんだから、本気で相性は最悪なのかもしれない。それに、今本当に睨み始めたのも事実だった。
「その怖い顔止めて欲しいっつってるだけじゃん」
 仗助が唇を尖らせながら抗議してくるのはいつもの事で、なんだかんだで自分も仗助もお互いこういう応酬に慣れ親しんでいるのが実感させられる。それがまた、何となく気に入らない。
「怒らせない努力くらいしてから言え」
「してるつもりなんスけどねぇ〜」
 いかにも苦労させるなぁ、と言いたげな表情が特に腹立たしかった。
「どこがだよクソッタレ」
 悪態吐いてしまうのは自分自身の性格に則ったもので、改善する気は今のところ起きない。それでももし自分の言動が変化したなら、と。一瞬でも想像してしまうのがまた、やけに忌々しいのだ。

 案外、会話が途切れても仗助と居る事自体は苦痛に感じない。それはそれで、と言い出すとキリがないが、喋る事も目を合わせる事もしなければ大抵は問題なんて生じないだろうと思う。生じないんだろうが、それと一緒に居ても苦痛ではない、というのは少し違う気がしている。どんなに突っ掛る事がなくても、他人の存在は普通居心地に影響する様に思えた。
 じゃあ仗助の存在は自分にとってどういう物か、とその点について考え始めてしまうと。正直認めたくないが、黙って座っていれたのが途端にむず痒くて仕方なくなる。仗助が平然とした態度でいると、尚更だ。
「あっおれも紅茶飲みたい」
 居た堪れなくなってソファーから立ち上がると、ほとんど間もなく言われた。まるでこちらの行動が全部読まれているんじゃないかとさえ思えてしまって、またむず痒さと苛立ちが同時に込み上げてくる。
「……チッ」
「舌打ちも止めましょうよぉ」
 聞こえないふりをしてキッチンに逃げ込んだが、仗助からすると聞こえないふりじゃなくて聞き流しただけ、にでも見えるのかもしれない。何にしたって、余裕がないのはいつもぼくの方だ。

 紅茶を淹れる間もそわそわしていたのは自分だけで、リビングに戻っても仗助は普段通りソファーにだらしなく腰掛けていた。せめて客らしく居住まいは正せ、と言おうとした途端、待ってましたとばかりにさっと座り直したので肩透かしを食らった気分になる。
「どうして君はそうなんだか……」
 調子を狂わされっぱなしでついため息が出た。けれどそう悟られるのだって歯痒い気がして、なるべく自然な動作になるよう注意して近づき、紅茶を目の前に置いてやる。そう、意識して振る舞った事さえ気づかれているかもしれない。本当に、この疑心には際限がなくて煩わしい。
「……あ、露伴。ちょっとストップ」
 呼び止められて素直に立ち止まってしまうのが、また。思わず眉を顰めてしまうが、仗助から見れば呼び止められた事自体に苛立った様に見えるかもしれない。どこまでもちぐはぐで嫌になってくる。
「何だ」
 座ったままの仗助にじっと見つめられたじろぐ。一歩引きたくなったが、その動揺を悟られるのはやはり、どうしたって悔しい。
「や、下から見上げるとあんま睨んで見えねぇと思って」
 けれどニカッと邪気なく微笑まれ、不意を突かれてしまう。苛立ちを一瞬だけ、忘れる事ができた。

「……はぁ?」
 自分の発した間が抜けた声で、すぐハッと正気に戻る。けれど困惑した表情は隠せていなかったらしく、仗助は笑顔を崩そうとしなかった。
「もっとキツイ目元っぽい印象あるけど……結構可愛い目してるよな、アンタ」
 見上げられたまま、いつの間にか腰に腕を回され引き寄せられていて、つい呆気に取られてしまう。振り解こうと一瞬力を込めたがビクともしなかった。
「……普段自分は背が高くて見下ろしてるからわかんなかったです、って事か?」
 なるべく冷静を装ったつもりだったが、自分でも声が震えてしまったのがわかり頬が熱くなった。顔を伏せようとしてしまって、余計に仗助と目が合ってしまう。
「捻くれた意味でとんないでくださいよォ」
 困った様な笑顔が、やはり何もかも悟られている気がして、心底忌々しい。肩に手を置いて押し退けようと試みるが、やはりビクともしなかった。

「否定しろよっ……おまえ、どれだけぼくを怒らせれば気が済むんだ」
 本心で怒っているわけではない。むしろ酷く気恥ずかしくて、口元が勝手に笑顔を作りそうになった。素直に照れた反応をしてやるのはムカつく気がして必死に堪えただけだ。
「え?怒ってんの?」
 けれどキョトン、とした声を出す仗助には、やはり何故だか全部ばれているらしかった。
「なっ」
 口をわなわなさせたまま固まると、また仗助が笑顔に戻った。その余裕が腹立たしくてむず痒くて悔しくて。
 思わず、一拍間を置いて頬にビンタをかましてしまう。

「いてぇ!」
「痛くしてるんだから痛いに決まってんだろ馬鹿!」
 頬を抑えて腕が離れた隙に距離を置いたが、こちらの気持ちが落ち着くよりも先に、仗助はまた困った様に微笑んでみせた。

「……露伴の照れ隠し、過激っスねぇ」 
 何故だかやはり、仗助には全てばれているらしかった。……照れ隠しだと認めるのも、やはり癪だが。



 2013/10/22 


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