甘噛み   仗露



 抱きつくだけのフリをして、仗助は露伴の腰に腕を絡ませた。露伴はされるがまま、反応せずに手元の雑誌を捲っている。一瞬仗助はムッと顔を顰めたが、そのまま脇腹に顔を近づけ何度か頬擦りした後、前触れもなく吸い付いた。
「馬鹿、跡つけるなよ」
 ようやく雑誌から顔を上げた露伴が、容赦なく仗助の顔を押し返す。内出血の跡はまだ出来ていない。少し仗助の唾液が付いていたのを、嫌そうにゴシゴシと腕で擦ったせいで、むしろその部分に赤みが差した。
「嫌なら隠せば良いっしょ?」
 手のひらから逃げ出して、仗助の方は憮然とした態度でもう一度露伴の方に身体を傾ける。露伴も逃げる様に腰を浮かせて僅かに距離を取った。それでも、ソファーから立ち去ろうとはしなかった。
「あんた、いつも腹だの首だの無防備に出し過ぎ」
 腕を伸ばして露伴の脇腹の辺りに滑らせる、仗助のその撫で方は普段の愛撫と似ていた。露伴は少し肩を震わせ、それから呆れた顔を作って見せる。
「年中盛ってる奴らしい思考回路だな……」
 仗助の手を振り払って、露伴は小さく嘆息した。しかし振り払っても仗助がまた手を伸ばしてくる。その内諦めて、撫でるのに任せ、露伴はソファーの背もたれにゆっくりと肩を押し付けた。
「露伴って独占欲とかそーいうの、もしかしてわかんない人?」
 不満げに言いながら、露伴が素直に撫でられるままになったのを見て仗助は笑った。腹に這わせている左手をそのままに、今度は僅かに傾けられ白さが余計に露わになっていた首筋に右手を触れさせた。
「おっ何だ、絞めるのか?」
 包む様に手を掛けられ、露伴は少し嬉しそうに視線だけを仗助の方に向けた。
「はぁ?ヤダよ」
 仗助は即答して、むしろ少しも絞める事のないように優しく首筋をなぞった。何だつまらない、と露伴がポツリと小さく呟いたので、また顔をくしゃっと歪めた。
「残念そうな顔すんなよ。変態」
 首を優しく愛撫する分、仗助は腹を弄る方の手に力を込めた。露伴は圧迫感で、一瞬息を詰まらせる。
「『飼い犬に手を噛まれる』経験くらいしても良いと思ったんだけどね」
 けれどすぐに、何ともない風にすましてそう呟いて、自分も仗助の方に片腕を伸ばした。そのまま頬を撫でたり抓ったりする。仗助はされる内に上機嫌になったらしく、少しニヤついてから露伴の方に再度身体を擦り寄せた。
「噛むのならいくらでもやってやるよ」
 冗談めかして言ってから、仗助は優しく撫でていた露伴の首元に噛みついた。
「馬鹿、慣用句だろ」
 息がかかるのを擽ったそうにしながら、露伴も笑った。押し返そうと一応肩に手を置いているが、ほとんど力は込められていない。
「露伴噛むの、何か楽しいんっスよね」
 視線が合う程度に顔を上げて、仗助がポツリと真顔で零す。それを見てまだ露伴が笑うので、仗助もまた一緒になって笑った。
「甘噛み程度にしとくから。良いっしょ?」
 それからもう一度、噛みつく場所を変えて仗助が顔を近づける。また息がかかったのか、露伴はフフっと声を立てた。
「いや、気が変わった。歯形、つけても良いぞ」
 けれど少し、押し返す手に力を込めて仗助の顔を真正面に捉えた。代わりに少し身体をずらして、ソファーに寝転がる様にその身を沈める。
「服、フツ―の着てくれんの?」
 仗助は驚いた様に僅かに目を丸くしつつ、促される様にその上に覆いかぶさる。
「嫌だよ」
 そして露伴がスッパリと拒否してくるのに、今度こそ完全に驚かされて目をむいた。
「明日も家の中に引きこもれば済む話だろ。……まさか付き合わない、なんて言わないよなァ?」
 それを見て、露伴はまたニヤリと笑った。
「勿論っスよ」
 ちゃんと責任取るよ、と仗助がまた冗談めかした声で付け加える。露伴はしきりに愉快そうに、声を立てて笑っていた。



 2013/09/16 


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