眠る前に   承露



「承太郎さんって間が悪いですよね」
 そう露伴に言われるのはもう何度目かわからない。厳しく咎める風ではなく、少し呆れた様な口調の今回は、純粋に露伴自身の意に合わなかった間の悪さという事なんだろう。
「今から昼寝するところでした」
 露伴は天井を指差して、そのままくるりと緩く手を回して見せる。今から寝ようかという、まさにその直前で自分が来たらしい。ギリギリ、ヘアバンドはまだ身に着けていた。
「徹夜か」
 手を添えて目の下を小さくなぞる。薄らとだが隈が出来ていた。一瞬何か言いたそうに顔を顰めたが、露伴は目を閉じてされるがままになった。今は眠気が勝っているらしい。
「何か、昨日から筆が乗ってて」
 露伴は天井を指差していた手で、そのままものを描くジェスチャーをして見せる。

 漫画家は身体が資本だからと、露伴は普段自分なんかよりよっぽど規律正しい生活をしている。それなのに漫画の為の不摂生なら今日の様に平気で行う。矛盾とも、実直さとも取れる。ただ露伴らしいといつも感じる。
「でも良いや。承太郎さん、添い寝してくださいよ」
 無意識の内、マッサージする様に隈の辺りを親指で優しくグッ、グッと押さえていると、いい加減くすぐったそうに、露伴がその手を引っぺがしてきた。そのまま手を握って、露伴は首を少し動かしてまた寝室をさした。 
「添い寝だけか」
 手を引かれて階段を上りながら冗談の口調で言うと、眠そうな声で露伴もあはっ、と小さく笑った。
「たまにはそういうのも良いでしょ」
 やってばっかりでもしょうがないし、と付け加えられて自分も少し笑ってしまう。その顔を見ようとしたのか、露伴がチラリとこちらを向いた。
「あ、もしかして何かぼくに用事ありました?」
 急に気付いたらしく、いきなり階段で立ち止まられて思わず身体が落ち掛ける。確かに訪ねた途端に間が悪いと言われ、要件を訊かれた覚えはなかった。
「いや。散歩にでも誘うつもりだった」
 また笑ってしまいながらそう言うと、露伴は安心してまた階段を上り始める。本当に自分は寝る直前に訪れたらしく、寝室の扉は半開きになっていた。

「散歩、起きたら行きましょう」
 ベッドに勢いよく寝転がった露伴が、しばらくもぞもぞとシーツの波に潜って寝心地を探った後、布団を被ったままそう言ってくる。布越しの声はくぐもっていたが、眠い人間特有の溶けた様な優しい声音に聞こえた。
 自分もベッドに腰掛けて布団の上から頭がある辺りを撫でる。またもぞり、と露伴が中で動いた。
「起きる頃には夜になっちまうだろう」
 と言うと、夜でも散歩はできるでしょう、と答えが返ってきて、納得する。
「寝付くまで見といてやる」
 顔まで覆っていた布団を引っぺがすと、露伴は一瞬眩しそうに目を細めたが、想像より自分の顔との距離が近かったらしく楽しそうに声を立てて笑った。
「そう言われると寝るのが勿体ないなぁ」
 また露伴が布団の中で動いて、身体を反転させた。寝る気が本当に薄れたらしく、何かお話してよ、とまで付け加えてくる。

「……昼寝は昼の内じゃねぇとできねぇぜ」
 呆れた風を装ってそう言っても、露伴はまた楽しそうにクスクス笑っていた。



 2013/09/10


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