あ、死ぬなこれ、と思った。
 地面に叩きつけられた衝撃で咳が出て、同時に口から血も飛んでいったのが見えた。腹周りがどこかへ消えてしまったように感覚がなくて、けれど、熱い。
 黒い礼服を着た片腕が、視界の先に転がっている。自分と一緒に吹っ飛ばされた、あの腕の助けがなければ即死だった。
 さらに目を動かす。最期の一撃を放ったエネミーが、禍々しい色の塵となりさらさらと崩れていく。

「が、ん」

 いつのまにか傍まで来ていた黒い足が畳まれ、酷いしかめっ面が目線を合わせてくる。

「口を開くな。……否、おまえの意志を妨げるものではない、が、──傷に障る」

 回りくどい言い方が彼らしくて、口元が緩んだ。

「巌、窟王」

「……何だ」

 ごめん、という言葉を呑み込む。きっとそれは、悲しい終わりになってしまう。

「……あ、り、がと」

 見開かれた金の目が、こぼれ落ちそうなほどだった。濃い、血のにおいがする。たぶん自分と彼の二人分。動かない指先がひどく冷たくて、そこだけ氷に浸されたかのようだ。
 彼の残った左腕がこちらへ伸びてくる。唇が開き、なにかを言ったはずなのに、耳か意識が追いつかずわからなかった。少し、悔しい。
 聞き取れなかったのがバレたのだろう、巌窟王が口元を笑うように歪めた。まばたきの間隔が長くなるせいで、それもうまく見ていられない。背中に彼の腕が回る。重い意識が、沈んでいく。

2021/08/27

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