『誰に宛てるでもなく、返事が来ることもないとわかっていながら手紙を書くなんてね。
意味がないとわかっていながらも、なんとなく書いてみるよ。
気づいてくれた君に、もし時間があるなら返事を返してくれないか。少しだけ僕の戯れ事に付き合ってほしい。』

本当に手紙だったら悪いかな
なんて思いながらも、手紙を開いてみるとそこには、それはそれは達筆な文字が並んでいた。所謂、行書と草書を混ぜた様な文字、それこそ教科書で見る江戸時代の手紙の様な文字だ。それに、候文。
古典で習うような文章が並んでいるのにも関わらず、どうしてだか、内容を把握できていた。

誰に宛てるでもなく
ということは、誰でもいいから話を聞いてもらいたいのかな?
自信はないけれども、きっとそうだろうと思い
蔵の仕事が終われば上がっていいと女将からも言われていたため、気兼ね無く家へ持ち帰ることにした。

手紙の文章を読んでから、不思議なことに窓際に置かれたままの手紙を見つけたときの様な不気味さはかけらも無くなっていることに気付いた。



『お手紙を見つけたので、返事を書かせていただきます。誰かに聞いてもらいたい話でもあるのでしょうか。』


相手がわざわざ墨で書いているにも関わらず、部屋に置いていた、ルーズリーフにボールペンで当たり障りのない文章を書いた。

蔵の鍵は3つ。
倉当番である私と、女将である母、そして事務所にスペアキーが置かれている。
きっと、従業員の誰かがおもしろ半分で書いて私の気づかない内に置いていたんだろう。
もし、その従業員がまだ今も働いている人なら、そのうち返事が返ってくるかもしれない。
暇潰しがてらに、私も楽しませて貰おう。
返事が帰ってくることを密かに期待しながら、誰かからの手紙が置いてあった場所にそっと私からの返事を置いて、蔵を後にした。



もう、空は暗く星が輝き初めていた。
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