4月29日
新生活が始まったことで両親が経営する旅館、秘色荘への客足も随分と引き、忙しかった春休みが嘘の様だ。
とはいえ、4月も末日になった今日まで、有難いことにお客様が0の日はなかった。
新学期が始まってもなお、バイトとして相変わらず忙しく働いている。
「名前、悪いんだけど今日から蔵当番任されてくれない?」
「私が!?やだよー!」
「文句言わないで。パートさんが一人辞めちゃったから仕方ないのよ。」
女将でもある母から頼まれたのは、蔵当番という仕事。
半年毎に交代制で蔵の掃除や管理をする当番の事を、うちではそのまま蔵当番と呼んでいる。
あまりに大きい蔵を半年間かけて決められた場所ごとに片付けていく。
半年後には蔵が一通り掃除され、次の担当者へと回される。至ってシンプルな制度。
いかんせん、この担当は半年に1人。
1人で蔵の中を掃除するというのは、あまりに重労働だ。
その為、基本的に手付かずのまま放置されている場所も多く、そもそもまともに清掃している従業員がいるのか怪しい程だ。他の従業員なら、サボるための言い訳にもってこいの仕事。
しかし、女将の娘でもある私にはそんなものが適用されるはずもなく、ただ只管に何年分かのホコリを追い出さなくてはならない。
それでも頼まれてしまったからには仕方がない。
誰かに押しつけるなんてことできるはずもなく、トボトボと蔵へと足を向けた。

問題の蔵は、旅館からは少し離れており、どちらかというと私たち家族が住む家からの方が近い場所に建っている。
だからこそ、皆蔵当番になればサボれる。羨ましい限りだ。
陰鬱な雰囲気で湿っぽいこの蔵が、私は幼い頃から苦手だ。

「どうせなら春休みの間に言ってくれてたらよかったのになあ…なにも学校から帰って疲れてる私にさせる事ないじゃない」
ブツブツと文句を垂れながらも、蔵の重い引き戸を開けると、薄暗くひんやりとした冷たい空気が私を包む。
とりあえず、空気の入れ替えをしようと備え付けの階段をあがり、小さな窓を開けた。
窓から春の柔らかい風が吹き込み、窓の外では一面には桜はもう散ってしまったが、爽やかな青が広がっている。
小さな窓から光と風を招き入れ、冷たい空気が温かく柔らかくなった頃、ようやく私にもやる気が芽生えた。

「さあ、やるか!」

袂を襷掛けで結び、一言つぶやいて気合を入れなおした。
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