必要な嘘 と 不要な迷い
02*




※こちらのページには性的表現がございます。苦手な方・18歳未満の方はお戻りください。
























シーツが濡れて肌にまとわりつく感触が非日常的で、俺に覆いかぶさった尋之さんからポタポタと垂れてくる水滴にすら身体が揺れてしまう。煩しそうに前髪をかき上げる尋之さんの仕草に、胸がドキドキと高鳴る。

「まさか、はるちゃんから誘ってくれるとは思わなかったな」
「いつも尋之さんから、言ってくれるから」
「あー、まぁ、そうだね」
「尋之さんに、頼ってばかりでごめんなさい・・・」

俺が言った謝罪の言葉を聞いた尋之さんは何かを堪えるかのように、グッと口を結んで目を閉じたかと思えばゆっくりと息を吐き出した。
やっぱり、俺がいつまでも受け身でいたことに不満を持っていたんだろうか。不安に思いながら、身体の上で強張らせていた腕を伸ばして、俺に覆いかぶさっている尋之さんの背中に回すと笑いながら額にキスを落としてきた。

「んー、いや、むしろいい塩梅だよ。毎回はるちゃんに誘惑されてたら、多分抑え効かないから、俺」
「そう、ですか」
「うん。恥ずかしがって抵抗するくらいが丁度いい。今、はるちゃんのこと、抱き潰したいくらいだから」
「え・・・」

熱のこもった尋之さんの目は、おそらく本気で。顔に熱が集まるのを感じて視線を逸らそうとした俺を片手で制した尋之さんは、いつも以上に甘い笑顔を浮かべた。

いつだったか、宇野さんに『若の笑顔は、組の中で恐ろしいものとして認識されてます』と言われたのを思い出す。その時は、全く理解できなかったが、今ならなんとなく分かる。見慣れているはずなのに、逃げられないんだと本能が訴えかけてきて背筋にゾワっとしたものが走った。

「かわいいはるちゃんにお願いされたら、断るわけにいかないよねぇ」
「あ、いや、その」
「うん、頑張るね、俺。明日明後日は俺が介抱してあげるからね」
「え、あ、まっ、んっ」

恐ろしい言葉を並べた尋之さんの胸に手をついて押し返したがなんの意味もなく、呼吸を奪うようなキスをされて力が入らなくなった腕はむしろ縋っているようだった。

俺の身体についていた水分は、ほとんどマットレスと尋之さんが頭の下に差し込んでくれた枕に吸われていた。

「ん、は、あ、ひろ、ゆきさ」
「かわいいね、はるちゃん」

ようやく長いキスを終えると、尋之さんは勝手知ったるというようにベッドの横にある棚を開けてローションとコンドームを取り出す。自分で買ったことはないけど、いつの間にか常備されるようになったそれに、また顔に熱を集めた俺を見て尋之さんが口端を上げる。

「自分で誘ったのに、こんなので顔赤くするなんて」
「だって、なんか」
「うん。俺とはるちゃんが愛し合ってるってことだよね」

なんでこの人はこんなにサラリと甘ったるい言葉を吐き出せるんだろう。

ちゅっ、とわざとらしいリップ音を鳴らして頬にキスをした尋之さんは身体を起こして俺の脚を肩に乗せた。少し上がった腰の下にもう一つの枕を差込まれ、ローションが付いた手でお尻の割れ目を撫でられる。これだけは何度経験しても羞恥心が拭えない。

顔を横に向けて枕をギュッと握るのと同じタイミングで穴にゆっくりと尋之さんの指が入ってくる。

「ん、・・・あっ、んんっ」

俺が気持ちよく感じる場所を知られているのもかなり恥ずかしいが、そこばかりを刺激されればそんなことを気にする余裕もなくなって自分から出ているとは思えない嬌声を上げてしまう。

「大丈夫?痛くない?気持ちいい?」

何度もしているのに、毎回こうして聞いてくる。本当に気遣っての言葉なのだと分かっていても、首を縦に振るのは気持ちいいと言っているのと同じだと思うと恥ずかしい。そんな俺を見て、尋之さんは安心した表情を浮かべて丁寧に解していく。

優し過ぎるその触り方は、もっと強く触って欲しいとはしたない言葉を言ってしまいそうになるほどで。
抱き潰したい、なんて言ったとしても俺を大切に扱う尋之さんに胸がギュッと締め付けられる。


初めてした時は2時間以上かけていたっけ、と、思い出していると指を増やされて中にあるシコリをグリッと押されて思考が止まる。いつもより早めにきたそこへの刺激に、やっぱり少しだけ、今日の尋之さんは違うと視線を向けるとバチッと目があった。

「あ、ん、んっ、ひろ、ゆ、さっ、んんっ」
「あー・・・ごめん、はるちゃん、今日ちょっと余裕ない」
「も、だいじょ、ぶ、ですから、んっ、いれて、くださ、い」

言われてみれば、後を解かすのと同時に触れてくるのがほとんどの俺の陰茎は触れられておらず、しかしそれでも緩く勃ち上がったそこからは少しだけ先走りが垂れていた。

視界に映る刺激的な状況に腰が揺れると、目敏い尋之さんは息を吐くように小さく笑って俺の頬を優しく撫でる。

「ほんと、俺には勿体無いくらい、かわいい」
「かわいく、ないです」
「んー、まぁ、俺だけがわかってればいいかな」
「なんですか、それ」

嬉しそうに笑った尋之さんにつられて俺も笑みを浮かべる。近づいてきた顔に目を閉じると口に来ると思っていた感触が鼻に触れた。そのまま額、瞼、耳とキスをされて、最後に唇に触れたと同時に尋之さんが俺に入ってきた。

「んんっ、ふ、あ、あぁっ」

奥まで入れず、浅いところだけを刺激されるもどかしさに、背中に回した手で爪を立てると尋之さんはまた嬉しそうに笑う。

「は、あ、んっ、尋之さ、ん」
「ん?」
「もっと、奥、入れ、ああっ、は、あ」

俺の言葉に待ってましたと言わんばかりの勢いで一気に奥まで入れられた感覚に、目にチカチカと光が走る。ガクガクと震える脚をさらに開いて腕と身体で押さえつけた尋之さんはそのまま腰を動かし始めた。
いまだに触られていない俺の陰茎からは透明の液体が出ていて、腰を打ち付けられる度に肌を伝って揺れ動く。

直接的な刺激が欲しいと、枕にしがみついていた手を離して自身に手を伸ばす。しかし触れる前に繋ぎ止められてしまい、それは叶わなかった。
なんで、と、懇願の眼差しを向けると尋之さんは申し訳なさそうに笑った。

「今日は長くなるからちょっと我慢してね」
「あ、そん、な、んっ」
「・・・ごめんね。でも、はるちゃんのためだよ」
「や、さわ、って、あぁっ、まって」

尋之さんの言葉に伸ばしかけたもう片方の手も捕まり、さらに激しくなった律動に嫌だと首を振る。気持ちよくてイキそうなのにイケない、押し寄せる快感の波に流れ落ちた涙を唇で掬った尋之さんは、耳元で再びごめん、と言った。

体勢を変えるのか、尋之さんが身体を起こすと密着していた肌が離れて寂しく感じた。抑えられていた手は離されたが、自身に触れようとはせずに離れてしまった尋之さんに伸ばすと、掴まれてそのまま身体を持ち上げられる。肩に乗せられていた脚は横にまとめて流されて、尋之さんが入ったままの状態で身体を反転させられると中が擦れて腰が揺れてしまった。

されるがままにうつ伏せになった俺に覆いかぶさった尋之さんへ視線をやると、少し乾き始めた髪を両手で後ろに流していた。

どこか気合を入れているようなその仕草に、何をされるんだろうと少しの恐怖と期待にドキドキしていると、肩に手を回されてうつ伏せのまま上体を起こされた。のけぞった身体を支えるために伸ばしていた脚を引いて膝をつくと中で尋之さんの陰茎がいいところに当たる。

「尋之さ、こ、れ」
「体勢辛くない?大丈夫?」
「だい、じょうぶ、ですけど、でも」
「うん、じゃあ動くね」

後ろから抱きしめられているような体勢だが、身体に巻きついた尋之さんの長い腕に支えられていなければ前に倒れてしまう浮遊感が怖くて、肩とお腹に回った腕に掴まる。

動いたせいで抜けかけていた尋之さんの陰茎が、一度俺の中から出ていきローションが足された。少し冷たいそれにビクッと身体を揺らすと同時に、一気に奥まで突かれるとビリビリと全身を電気のようなものが駆け巡る。

「は、ぁ、あ、あぁっ、これ、やだっ」
「気持ちよくない?」
「こわ、い、な、んあっ、くる」
「そろそろ中だけでイケるかもね、はるちゃん」
「わか、ん、な、あ、あぁああぁっ」

ズズッとゆっくり出ていったかと思えば、またゆっくりと挿入して身体を揺するようにグリグリと刺激する尋之さんの動きに、意思とは関係なく身体が大きく跳ねた。射精する感覚とは全く別の快感の強さに、身体の痙攣が止まらない。おかしい、怖いと、揺れが止まらない腰のせいで刺激が続く。

どうしようと目から涙を流す俺の身体を、尋之さんがゆっくりとベッドに沈めた。そして、上に覆いかぶさると耳元で言った。

「はるちゃん、今ドライでイったんだよ」
「んっ、あ、ぁ、どら、い?」
「そ、出さなくてもイくやつ。まさかいきなりドライとは思わなかったけど」
「これ、怖い、あぁっ、ず、っと、なん、か、んんっ」
「怖くないよ。大丈夫」

あられもない声を上げ続ける俺が落ち着くまで動かないでいてくれたが、中に入っているだけで感じてしまう今の俺は、しばらくの間ベッドの上で尋之さんに抱きしめられていた。

そしてようやく波が去って、涙に濡れた顔をあげると尋之さんは嬉しさと辛さが入り混じった笑顔でこちらを見ていた。

「ほんとは、ここで止めてあげたいんだけどね」
「あ、ごめんなさい、俺ばっかり・・・」
「うーうん、いいのいいの、むしろはるちゃんのかわいいところ見れて嬉しい」
「かわ・・・」
「落ち着いたなら、もうちょっと頑張れる?はるちゃん」

軽く腰を揺らした尋之さんに顔を熱くしながら頷くと、再び仰向けにされていつも通りの体勢になる。
やっぱり顔が見えた方が安心すると、頬を緩ませ、尋之さんの首に腕を、腰に脚を回した。

「あー・・・無自覚に誘ってくるんだから」
「え?」
「覚悟してね、はるちゃん。今日は長いよ、ほんとに」

尋之さんがいつも言う、無自覚、の意味がわからない。それでもこんな俺に欲情してくれるのが嬉しくて頷けば尋之さんの目つきが少しだけ鋭くなる。
夜の世界では恐れられる、俺にとっては愛情の証のそれに胸をときめかせた。しかし、カーテンの外が白み始めて、もう本当に無理だと泣きついて止めてもらった時に、頷いたことを少しだけ後悔した。



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