必要な嘘 と 不要な迷い
01*




※こちらのページには性的表現がございます。苦手な方・18歳未満の方はお戻りください。
























仕事終わりの金曜日。
土日休みの俺に合わせて仕事を入れないようにしてくれている尋之さんのおかげでどちらかの家に泊まるのが定番になっていた。

例の如く会社の近くまで車で迎えに来てくれた尋之さんと夕食を食べて、今日は俺の家へと帰ってきた。2人ともほとんどスーツ姿で待ち合わせている為、どちらの家にもお互いの寝巻きが置いてあり、その事実に慣れることなく毎回むず痒い気持ちになってしまう。

先にお風呂に入ってもらった尋之さんのために寝巻きを用意している今も、明らかに自分には大きすぎるスウェットの上下に熱をもった頬を冷ますように仰ぐ。そして熱が落ち着いてから、タンスから取り出したそれを、洗面所にタオルと一緒において尋之さんに声をかける。

「尋之さん、タオルとか置いておきますね」
「うん〜、ありがと〜・・・あ」
「え、何かありました?」
「ちょっとドア開けて〜?」
「?はい、何か足りないものでも」

昨日の夜入った時点では、ボディソープもシャンプーも半分以上あったはずだけど、と疑問に思いながら浴室のドアを開けると、いきなり泡塗れの長い腕が首に回されて思考が止まる。シャツがしっとりと濡れて行く感覚に、ようやく状況が飲み込めてきて目の前で満面の笑みを浮かべる尋之さんへ視線を向けた。

「え、っと、・・・これは」
「頭、泡だらけになちゃったね、はるちゃん」
「あ、はい・・・え?」
「もうお風呂入っちゃうしかないねぇ」
「・・・え!?」

気づけば泡だらけだった手で撫でられた頭と腕を乗せられた肩が泡まみれだ。どういう魂胆かわかった時にはもう遅くて、泡を流して俺のシャツで水分を拭った尋之さんの手がベルトを外し、スラックスを脱がされかけていた。
慌ててその手を掴んで止めると、尋之さんがトーンを落とした声で言った。

「・・・はるちゃんは俺と入るのいや?・・・だめ?」

毎回毎回、この言葉と寂しげな表情に騙される自分が嫌になる。それでも、眉を下げて笑う尋之さんを直視してしまえば、断ることはできなくて、恥ずかしいだけだと首を横に振ると尋之さんの声色が嬉しそうなものに変わる。

「じゃあ、一緒に入ろ」

まさか、恋人とお風呂に入るなんてことを自分がすることになるとは思わなかったと、服を脱ぎ終えてから一度閉めてもらったドアを見つめて息を吐く。何度も裸は見せているし、今更恥ずかしがることもない。そう、場所がお風呂に変わっただけだ。自分にそう言い聞かせて、無駄に深呼吸をしてからドアを開けると、泡を流し終えた尋之さんは先に浴槽に入っていた。

「ふふふ、恥ずかしがってるはるちゃん、かわいいね」

入ってすぐに浴室の椅子に座った俺に向けられた言葉に、ジトっと視線を向けてみたが、楽しげな笑みを返されて何も言い返すことなく頭を洗い始める。尋之さんに向けた背中にじりじりと感じる視線を無視して、身体まで洗い終えてから振り返ると、濡れた前髪をかき上げた尋之さんに手招きされる。

「ほら、はるちゃんおいで」
「・・・はい」

決して広くない浴槽に入れば、尋之さんに対して向かい合い、体育座りで小さく丸まっていても長い足が俺の体を挟み込む。お湯の中で触れ合う素肌に、いつも以上に敏感になってしまう。決してわざと当ててきているわけではないのは分かっているが、再びジトリと視線を向けると、尋之さんはニヤリと笑みを浮かべる。

「せっかく初めてのお風呂なのに、なんでそんなに離れてるの?」
「だ、って、恥ずかしいです」
「え〜・・・じゃあ俺がそっち行こうかな」

ザバッと湯を揺らして俺の目の前に来ると、体育座りをする俺の脚を開いてその間に身体を入れ込み、俺に背を預ける。密着する肌に強張る俺とは真逆に、完全にリラックスしているらしい尋之さんは俺の肩に頭を預けて目を閉じた。

「・・・尋之さん?」

全く動かなくなった尋之さんに声をかけると、至近距離にあった尋之さんの閉じた目がゆっくりと開く。切れ長な目を縁取った湿った睫毛が揺れて、顔に熱が集まる。このままでは逆上せてしまうと視線を逸らすと、尋之さんの腕が首に回されてうなじを撫でられた。びくっと体を揺らすと手が後頭部に回って顔を引き寄せられる。

逸らした視線を戻すと笑みを浮かべた尋之さんの顔が近づいてきて、自然と目を閉じた。

フワッと触れるだけの感触から、下唇を噛まれて少し口を開くと尋之さんの舌が口内にゆっくりと入ってくる。尋之さんの薄い舌が上顎に触れるとビクッと身体が揺れて顔を引こうとした俺の頭を大きい手が押さえつけた。

「んっ、ふ、ひろ、ゆ、さ」
「んー?なぁに?」
「ちょ、っと、きゅ、けっ、んんっ」

答える時も唇を離さない尋之さんは、絶妙なタイミングで俺に息継ぎをさせてくれる。経験値の差が顕著に現れる行為に俺が慣れる日は来るんだろうか。

いつの間にか、身体を起こした尋之さんの脚の上に乗せられて、背中に回った腕が腰を撫でると下腹部に熱が集まる。勃ち上がりかけている自身を隠したくても、脚の間に尋之さんの体があってそれは叶わない。

ようやく唇を離されて、荒い息を吐いていると腰を撫でていた手がお尻に下がって、だいぶすんなりと尋之さんを受け入れられるようになったそこを指がトントンと刺激する。お湯の中だからか、いつもと少し違う感覚に腰を引くと尋之さんのお腹に陰茎が擦れて、バシャっとお湯が揺れるほど身体が動く。

「尋之、さ、あっ、や」
「お風呂で、ってロマンあるよね〜」
「んんっ、ゆ、び、広げちゃ、あ、やだ」

穴を指で軽く広げられ、お湯が入ってくる感覚が怖くて、尋之さんの首に抱きつくとさっきよりも強く陰茎が擦れて腰が揺れる。尋之さんとこういうことをするようになってから知った自分の快楽への弱さに、恥ずかしさと呆れられてしまうんじゃないかという不安がこみ上げはするが、尋之さんの手が与えてくる快感からは逃れようがなかった。

感じるようになってしまったそこを容赦無くグリグリと中から押され、同時に完全に勃ち上がった前を触られるともう俺はなす術も無く、されるがままに快感へと呑まれる。

「あ、あっ、も、むり、ですっ」
「うん、イっていいよ」
「ん、あぁっ」

お湯の中で尋之さんの手の中に熱を吐き出し、ぐったりと身を預ける俺の背中を撫でながら尋之さんが笑う。

「は〜、かわいい・・・」
「う、も、やです」
「あ、これからお風呂入るたびに思い出しちゃうかもね、はるちゃん」
「なっ、ひどい・・・」
「ふふふ、その度に俺に電話してくれたらいいよ。すぐに行くから」
「・・・しないです」

意地悪なんだか、優しいんだか分からない尋之さんにいじけたフリをして抱きつくと、緩く勃ち上がった尋之さんの陰茎がお腹に当たった。自分しかイっていないことを思い出して、尋之さんの顔を見れば余裕そうな笑みを浮かべている。

いつも、こういうことは尋之さんが雰囲気を作ってくれて、リードをしてくれる。俺はそれに流されるまま乗っかっているだけだ。時には恥ずかしすぎて、嫌がる素振りすら見せてしまう俺に、面倒だという顔もせず毎回優しい笑顔の尋之さん。
今日だって、このお風呂を上がれば、尋之さんに続きをしようと腕を引かれればベッドで身体を合わせ、何も言わなければこのまま何もせずに二人で眠るのだろう。

付き合っているというのに、未だに俺からこういった行為を誘ったことはない。もし、ずっとこのままでいたら、いつか尋之さんにもう面倒だと言われてしまう時が来てしまうかもしれない。それに、実際俺だって、尋之さんと身体を合わせたいと思っている。いつまでも尋之さんに甘え続けるわけにはいかない。

「あの、尋之さん」
「なーに?」
「えっと、あ、その」
「ん?え、どうしたの?」

尋之さんの首の後ろに回していた腕を引っ込めて体の前で拳を握って深呼吸をすると、尋之さんは不思議そうに首を傾げる。相変わらず急かすことはせず、笑顔で待ってくれる尋之さんと目を合わせて口を開いた。

「ベッ、ドで、続き、してください」
「・・・え」

おそらく真っ赤であろう俺の顔をぽかんとした表情で見つめる尋之さんに、居た堪れなくなって顔を下げると、突然浴槽から立ち上がった尋之さんに抱え上げられる。

「うわっ、え、尋之さんっ!?」
「ごめんはるちゃん、明日、俺が全部拭くし洗うし、全部掃除するから」
「え、え!?」

俺を抱えたままお風呂から出た尋之さんは、身体を拭わずに部屋へと戻った。
2人分の濡れた身体から滴る水がお風呂場からベッドまでをビショビショにしていく。

掃除するってこれの事か、とよくわからない納得をしていた俺を、尋之さんはベッドへ優しく押し倒した。



[ 16/27 ]
    

mokuji / main /  top



Bookmark



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -