原田家、初訪問
03


昼食を食べ終えて、早速膝によじ登ってきたみつきちゃんと一緒におもちゃで遊んでいると、みつきちゃんが大きくあくびをした。

「みつきちゃん、眠い?」
「んー、ねむくないよ」
「本当?もし眠かったら言ってね」

うん、と頷いたみつきちゃんはおもちゃを片手に今にも寝てしまいそうな顔をしている。こんな時どうすればいいのかと、ダイニングデーブルで梶野と話している原田に視線を向けると察したのかこちらに来た。
遊びたいけど眠いんだろうみつきちゃんは、何度もあくびをしながら目をこすっている。

「みっちゃん、ちょっとお昼寝しようか」
「でも、しんくんとまだあそびたい」
「まだいるから大丈夫だよ。ちょっとだけ寝よう?」

原田が腕を伸ばすと、素直に抱きかかえられたみつきちゃんはもう既に半分寝ているようだった。

「ちょっと、寝かせてくるから待ってて」
「うん」

2階へと向かった原田を見届けておもちゃを箱の中にしまう。人形遊びなんて初めてやったけど、みつきちゃんは楽しんでくれていただろうか。まじまじとぬいぐるみを眺めているとソファの横で眠っていた祐希くんの泣き声が響いた。

「あ、起きたねー。じゃ、私も2階行ってくるから、ごゆっくり!」

キッチンで片付けをしていた菜月ちゃんが祐希くんを抱えて2階へ上がっていくのをまた見届けて、おもちゃ箱に蓋をした。ダイニングに座る梶野に目をやると、こちらを見ていたのか目が合う。「ん?」と首を傾げた梶野になんでもないと首を振ってそちらに近づいた。

「すごいね、なんか、ほんと家族って感じ」
「ですね。原田先輩がちゃんとお父さんすぎて」
「ほんとほんと。信じられない」
「なに、俺の悪口?」

タイミングよく戻ってきた原田に、梶野と目を合わせて違う違うと首を振った。

「原田がちゃんとパパしててすごいなーって話だよ」
「あー・・・ちょっと恥ずかしいな」

照れ笑いした原田につられて笑う。

「あー、ようやくゆっくり話せるな」
「ははは、みつきちゃん、元気だもんね」
「ほんとだよ。あれは絶対、菜月似」
「それは思った」

それから少し、なんでもない話をしたがすぐに沈黙がやってきて、それを今だ、と意を決したように原田が口を開いた。

「あー、その、梶野としんちゃんは、付き、あってんだよな?」

視線をウロウロ彷徨わせながらも最後はしっかりと俺の目を見て核心をついた言葉を投げた原田は、気まずいというよりは恥ずかしそうな顔をしていた。そんな顔をされてしまってはこちらだって照れるし、恥ずかしい。返事をできずに首を縦に振ろうとしたが、それよりも先に梶野が口を開いた。

「はい、付き合ってます」
「そっか、うん。まぁ、よかったわ。しんちゃんに頼れる相手ができて」

梶野の言葉を聞いて肩の荷が下りたというように背もたれに寄りかかった原田は、笑いながら「よかったよかった」と何度も口にした。

「電話では、偏見ない、とか言ってたけど、本当に?ほんとに気持ち悪くない?」

人それぞれ、考え方があるのだから原田が嫌悪感を抱いていても仕方がないことだとは思う。でもそれを隠して、気を使って今こうして俺たちと話しているのだとしたら申し訳ない。同性だし、少なからず抵抗はあるだろう。

「偏見は、ねえよ?まぁ、理解はしてあげられないけど。でも好きならいいんじゃねって思うわ」
「っ、ありがとう」

そりゃ異性愛者の原田からしてみれば理解なんて到底できるはずもない。それでも、いつもと変わらず接してくれて認めてくれた。それだけで十分だった。涙腺が緩んだので手でグッと瞼を抑えると、隣に座っている梶野が頭を撫でてきた。

「あぁー、つーか、あれだ。あれ。お前ら見た目がいいから。だから大丈夫なのかもしれん」
「え?」

頭を撫でてもらって少し落ち着いたので顔を上げると、高校の時から変わらない憎たらしいニヤついた顔で原田がこちらを見ていた。

「ハゲたおっさん同士が、今のお前らみたいにイチャついてたら、おいちょっと待てよってなるかも知んねーけど、お二人さん美形じゃん?絵になるっつーか・・・あ、ちげえわ。高校の時からお前らそんなだったじゃん。だから違和感ねえのよ。ま、実際お付き合い始めました!って言われたらちょっとビビったけど、なるべくしてというか、今更というか?そんで、もしお前らが将来ハゲて、人前で今みたいなことしようもんならはっ倒してやるから安心しとけ」

最後にわはははと大きく笑った原田に、本当にありがとう、と身体をしっかり向き直して頭を下げる。梶野も隣で、ありがとうございます、と言っていた。

「やめろよ、頭なんか下げんなって。でもなー、世の中の女たちがブチギレそうだよなー。こんな美形が男同士でくっ付いちまうなんて。美形遺伝子が枯渇するな」

湿った空気を払拭する原田の声色に、心の底から感謝をする。
それから昔話をしたり、俺のこれからの就職についての話をしたりして、みつきちゃんが起きて俺に抱きついてくるまでの時間を潰した。






end.


梶野の原田への苦手意識(慎二との関係性について)はあまり解消されていません。
原田がいいやつであるがゆえに。



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