原田家、初訪問
02


次の日、原田に昼を一緒に食べようと言われていたので10時には梶野の家を出た。電車で50分ほどの距離だったが、車で向かったので念のため早めにした。
案の定日曜日だからか、道が混んでいて着いたのは11時半少し前だった。

大きくはないが、立派な一軒家に思わず足がすくんでしまう。俺が立ち止まっている間にどんどんと進んでいった原田は少し眩しい。そんな俺に気づいた梶野が優しく笑って手を握る。

「気にすることないですよ。なんなら俺たちも一軒家買いましょうか」

気遣ったその言葉に、また同棲の話かと呆れることはなく、手を握り返して笑った。

「あー、緊張する・・・原田の彼女、あ、もう奥さんか。会うの久しぶりだし」
「変わらないですよ、あの人」

原田が専門学生の時から付き合っていたので、何度か会ったことはある。可愛い顔をしているのに、怒ると手をつけられないと愚痴っていた原田を思い出して少し緊張がほぐれた。
梶野がインターホンを押すと5秒も経たないうちに玄関戸ドアが勢いよく開いた。

「ぱぱ!おともだちきたよ!」

ドアを開けたのは、ポニーテルにサロペット姿の女の子だった。原田の娘だろうその子は、ニコニコとこちらを見つめている。梶野も驚いたのか俺と一緒に固まっていると、すぐに後ろから原田が顔を出した。

「みっちゃん、ありがとね。二人とも、んなとこ突っ立てないで入れよ」

扉を抑えて手招きする原田にようやく我に帰り、お邪魔します、と言って玄関に入った。

「しんちゃん、体調大丈夫なの?」
「あ、うん。ごめん、心配かけて」
「いや、大丈夫ならいいんだけどよ」

靴を脱いだ俺たちにスリッパを出しながら原田が娘を抱き上げた。

「ほら、みっちゃん。自己紹介して」
「みつきです!3さいです!」

バッと勢いよく出されたみつきちゃんの指はどう見ても2本しか立っていない。思わず頬を緩ませると、みつきちゃんが原田の腕の中から抜け出して俺の足に抱きついてきた。

「かっこいい!」
「ありがとう。みつきちゃんも可愛いね」

頭を撫でて目線を合わせると、先ほどで出迎えてくれた時よりもキラキラとした笑顔をこちらに向けた。そんな俺たちを見ていた原田は「あーあ」と声を漏らした。

「久々に言うけど、全人類博愛主義タラシだなマジで。うちの娘はやらん」
「本当すごいですね、先輩。老若男女問わず・・・」
「ほんと久々だなそれ」

久々に言われた原田の言葉に更に頬が緩むとみつきちゃんがぎゅっと抱きついてきたので、そのまま抱え上げて抱っこをする。原田がムキになって「みっちゃん、パパのとこおいでー」といっても、みつきちゃんはいやだと首を振って俺にしがみつくだけだった。

玄関でワイワイと話していると、リビングであろう部屋から梶野の奥さんが顔を出した。

「かず、なーにずっと玄関で話してんの。入ってもらいなよ」

久々に見た彼女はだいぶ変貌を遂げていた。昔金髪だった髪は落ち着いた茶色で、長さもロングからボブに変わっていた。化粧も記憶にあるものよりだいぶ薄く感じる。

「あ、菜月ちゃん、久しぶり」
「久しぶりー!慎二くん相変わらず美形だね!眼福!梶野も久しぶりー」
「お久しぶりです。お招きいただいてありがとうございます」
「いーのいーの。そんな堅っ苦しい感じやめてよ」

口を開けて、豪快に笑う菜月ちゃんを見て先ほど感じていた緊張なんてどこかへ消えてしまった。明るくさっぱりとした中身は変わっていない。

「ほらほら、入って入って」

菜月ちゃんに腕を引かれて入ったリビングは、隅におもちゃが溢れている以外は綺麗に片付けられていた。一人暮らしをしていた時の原田の家を思い浮かべると、菜月ちゃんがどれだけ掃除をしているのかがよくわかる。

「今お昼作ってるから、ソファにでも座って待っててー」

キッチンに向かった菜月ちゃんについて行きたそうなみつきちゃんを下ろして梶野と共にソファに腰掛けた。原田は隣の部屋へ行き、眠っている息子を抱いて戻ってきた。

「ほら、これが祐希(ゆうき)。梶野も会うの初めてだよな」
「うわー・・・可愛い・・・」

お昼寝中らしい祐希くんは原田の腕の中で幸せそうに眠っている。

「夜泣きはすごいんだけど、普段はおとなしくってさ。多分俺に似たんだと思うんだよ」
「それは絶対ないと思う」
「・・・俺もそう思います」
「なんでだよ。俺と菜月だったら俺だろ」

ソファに座った原田の腕の中の祐希くんに釘付けになりながら、軽口を叩いているとキッチンからいい香りが漂ってきた。

「ぱぱー!ごはんですよー!」

みつきちゃんの大きな声でも起きない祐希くんに感心しつつ、ダイニングテーブルに近づくと様々な料理が並んでいた。

「うっわぁ、すごい」
「張り切っちゃった!慎二くんが食べると思ったら!あ、梶野も」
「・・・そんな思い出したように付け加えなくていいです」
「あはは、ごめんごめん。だって、私の専門の学祭に来た時とか慎二くんえげつないくらい人気だったからさ。私はそりゃあもう鼻高々だったよ」

懐かしい話をして笑う菜月ちゃんに促されて椅子に座ると、みつきちゃんが膝によじ登ってきた。

「こら、みつき。ご飯食べるんだからこっちでしょ」
「や!ここがいい!」
「慎二くん食べるの大変になっちゃうから!」
「やだ!」
「ダメなものはダメ!」

菜月ちゃんに怒られても泣くこともなく言い返すのを見て、ママに似たんだね、とこっそり笑っていると祐希くんをソファの横に用意した寝具に寝かせた原田がこちらに来て、みつきちゃんの頭に手を置いた。

「みっちゃん、しんちゃんお腹空いてるから、かわいそうだよ。みっちゃんがご飯との間にいると、食べられないから」
「う・・・ここがいいの・・・」
「うーん、ご飯ちゃんと食べられたらすぐに戻れるよ?」
「・・・ほんと?」
「ほんとほんと。ほら、みっちゃんの椅子に座ろうね」

いとも簡単にみつきちゃんをなだめた原田に、感動した。ちゃんとパパやってるんだな。
隣に座っていた梶野も同じように思っていたのか、小さい声で「すげぇ」と呟いていた。

「よし、食べようぜー。いただきまーす」
「「いただきます」」
「いた、きます!」

ちょっと涙ぐんでいたみつきちゃんも、ご飯を食べ始めればご機嫌に戻っていた。



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