タナカ捕獲の裏側 ハンダSide
02


店に着くと、鼻と口から血を流して倒れている田中とその横でなぜか笑う店のオーナーが座っていた。
気持ち悪い奴だと目を逸らし、宇野に視線を送る。

「お疲れ様です。御足労ありがとうございます」
「あぁ。で、田中はなんでこんな血まみれなわけ?」
「それが、この店に着いた時にはもうこの状態で」
「あ?なに?仲間割れ?」

田中を足で揺すって起こすと、目を開いた瞬間、隣に座っていた男に掴みかかった。

「あああああ!くそ!!お前が悪いんだ!!お前が!!」
「えー、田中くんがつけられてたんだから、君のせいだよ」
「ちげえだろ!絶対お前が!お前のせいだ!」
「あー、うるせえ・・・まだ殴られ足りないの?」

今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな田中と男を止めるように指示を出して、部下が持ってきたスツールに腰掛けた。

「はい、お二人ともー落ち着きましょーね。まずは、田中。聞きたいことあんだよねー」
「なんだお前!!っ、う、うあああああ!!」

俺への態度にムカついたらしい田中を抑えていた部下が腕を捻り上げると耳障りな声が店内に響いた。思わず眉を寄せると慌てた様子で田中の腕を離した。

「い、痛い・・・なんだ、なんなんだ・・・」
「田中、俺はあれ、藩大組の人間」
「あ、あ・・・そうか・・・もう捕まったのか、俺」
「そーそー、いろいろやらかしてくれたよね、お前」
「ふ、ふふふふふ、ははははははは。おう、いろいろやった」
「うんうん、言い訳しなくていい子だねー」

完全にクスリをやってラリっているであろう田中とまともな話し合いができるはずもなく、適当に話をしていると、田中の横の男が口を開いた。

「田中くん、そんなに悪いことしてたんだ?」
「あー、そうだねー10年は追いかけてたかなー」
「そっかぁ、ま、普通じゃないとは思ってたけど」
「そういうお前は、何?」
「俺ですか?俺も自分がおかしいことは自覚してるんですけどね。あ、伊藤くんはどうなりました?あー、今思えば殺そうとする前にヤっとけばよかったなぁ。腹上死っていうのかな?そんなのもアリだったかな・・・、きっと、すごく可愛かったんだろうなぁ。あぁ、よだれで濡れた顔もすごくよかった。涙で潤んだ瞳もすごく・・・」

こちらは多少まともなのかと思っていたが、そうではなかったみたいだ。反吐が出そうになるほどおぞましい、男の口から吐かれた言葉は聞くに耐えない。抑える部下に目をやって手で払う仕草をすると男を引きずって店から出て行った。

「田中ぁ、お前、多分殺されないよ。殺して欲しいって思っても」
「あ、はははははは!ああ!だよな!俺、おれは、やってやったから!」
「うん、そうだねー、こいつもうダメだね」

あまりにもイってしまっている田中を指差しながら宇野に目を向けると、ひどい顔をしていて思わず笑ってしまう。

「・・・とりあえず、組長のところに連れて行きます」
「頼んだ」

よっこいしょ、とわざと声に出してスツールから立ち上がると、笑っていた田中がピタッと動きを止めておれを見上げる。

「おれ、つれていかれるのか?」
「ああ、そうだよー。クスリ、抜けないといいねー?きっとすごーく大変だよー?オヤジ、クスリ大っ嫌いだからさー。カタギに手を出すのもね」
「そっか、そっか。くすり、だめか」
「うん、ダメだよ。ダメなことばっかしちゃったお前はどうしようもないね」

うわ言を言い続ける田中を尻目に店を出ると気が抜けたのか、ため息が漏れた。
常軌を逸した人間にはよく会うが、田中は頭一つ飛び出ていたようだ。こちらまで精神的におかしくなりそうな先ほどの会話を忘れようとタバコを取り出したところで着信があった。梶野からだ。
きっと伊藤さんを保護できたのだろうと、安堵の思いで電話に出る。

「はーい、藩大でーす。伊藤さん、無事ですか?」
〈腹を蹴られたようだから、今病院に向かってる〉
「あー・・・申し訳ないです・・・」
〈いや、命に別状はなさそうだ。むしろ動いてくれて助かった〉
「そんなそんな。俺はお仕事しただけですからー」
〈あ、病院、普通のところ行っても大丈夫か?もし、何か都合とかあれば・・・〉
「んー、そうですね・・・こちらの名前出さないでおいてくれるならどこでも大丈夫ですよー。申し訳ないですけど」
〈あぁ、そうだよな・・・酔っ払いに絡まれたとでも言いたいけど、明らかに縛られた跡があるんだよ〉
「・・・くそ、あの男殴ってやればよかった。じゃあ、送るとこ向かってください。連絡いれときます」
〈わかった。助かる〉
「いえー、じゃあ俺も後で行きますんで、よろしくお願いしまーす」

切ってすぐにショートメールでかかりつけの病院を送ると礼を返してきた梶野に感心する。ヤクザだとわかっても態度を変えない梶野の度胸に、伊藤さんを任せるには申し分ないと思う。

店の前に止めた車に乗りながら取り出したままのタバコに火をつける。

伊藤さんはきっと意識はないだろうけど、顔を見て謝りたかった。
いくら俺を優しいと思ってくれていたとしても、利用してしまった事実は変わらない。本当であれば伊藤さんのような人間は絶対に関わってはいけない存在である俺や田中と関わらせてしまったことが、心の底から申し訳ない。
この一件が片付けば、もう二度と会うべきではないとわかっているので、きっと最後になるであろう伊藤さんの顔を見に病院へと向かった。






end.



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