【喫茶 norme】の日常
学校帰りの女子高生3人組


最近、学校帰りに寄るようになったカフェ、【喫茶 norme】には超絶美形の店員さんが働いている。

初めて入った時には厳ついマスターだけがいたけど、ケーキとミルクティが美味しくて2度目に友達2人を連れて行った時は美形のお兄さんがいて、帰り道に3人でまた行こうと盛り上がったのは半年ほど前だった。

「あ、また来てくれた!」

放課後、いつものように3人で少し重たいドアを開けると、満面の笑みを浮かべたお兄さんが席へと案内してくれた。
今日こそは、彼女はいますか、と聞くことを心に決めていた私にエールを送って来る2人に頷いて、丁寧に椅子を引いてくれたお兄さんに頭を下げてから口を開いた。

「あ、あの!」
「はい?」
「え、っと、その・・・」
「・・・うん?」
「あ、あ、あの、店員さん、は」
「俺?」

不思議そうな顔をして首を傾げるその仕草に、ただ口をパクパクと開くことができなかった私に2人が助け舟を出す。

「店員さん、名前はなんですか?」
「いくつですか?」
「え?え、あ、名前は伊藤 慎二、歳は34です」
「ええ!34歳!?見えない・・・」

いっていても20代後半だろうと思っていたお兄さん、伊藤さんはまさかの30代半ばで。
きっと高校2年の私なんて子供にしか見えないだろうと肩を落とした私に慌てる友達へ苦笑いを返す。

「あはは、よく、言われるんだよねぇ」
「あの、ちなみに彼女、とかは」

何も言えなくなった私に変わって友達がそう聞くと、伊藤さんは驚いた表情を浮かべて固まった。
ずっと通っていた私たちにいきなり質問責めされてかなり戸惑っているようだ。しかし、その表情もすぐに柔らかいものに変わって、手に持っていたメニューをテーブルに置くと幸せそうに微笑んで口を開いた。

「恋人は、いるよ」
「あ、そう、なんですね」
「うん。俺にはもったいないくらいなんだけどね」

あまりにも幸せそうで、失恋してしまった痛みを感じる前にその表情に見惚れていると、カウンターの奥からいかつい顔をした店長らしいおじさんが出てきて伊藤さんに声をかけた。

「はーい。それじゃあ、決まったら声かけてね」

そう言ってテーブルから離れて行った伊藤さんから目を逸らし、深く溜め息を吐くと2人が両脇からポンと肩を叩いてきた。

「あんな幸せそうな顔されたら無理だよねー・・・」
「うん・・・というかあの見た目でいない方がおかしい」
「次いこ!次!歳もかなり離れてたし、うん。あの人に比べたら学校の男子はじゃがいもだけどさ!」
「だね」

励ましてくれる人がいて良かったと、2人に笑顔を返していつも通りケーキとミルクティのセットを頼んだ。
初恋は、伝えることなく終わってしまったけど、これからもこのケーキとミルクティのためにこのカフェには来たいと思っているし、気まずくならずに済んで良かったのかもしれない。

それから2人に励まされたり、学校で誰がかっこいいだとかくだらない話をして、気づけば2時間もカフェに居座っていた。
もう18時少し前で、慌てて帰り支度をしていると、カフェのドアが開いた。

入ってきたのは背の高いイケメンで、かっちりとスーツを着込んでいる。
無表情だったその顔が、伊藤さんを見つけた途端に破顔するのを直視してしまい、バッと顔を逸らすと友達2人が不思議そうな顔をした。なんとなく、伊藤さんの言っていた恋人が彼なんじゃないかと察してしまった。

「あれ、梶野。仕事早く終わったの?」
「はい。せっかくなので夕飯外でどうですか?」
「お疲れ様。じゃあ、あと1時間かからないと思うけど、一旦家帰る?」
「あー、そうですね・・・スーツは脱いでこようかな」
「じゃあ終わる頃に連絡するね」

伊藤さんと彼のやり取りを聞いて、私たち3人は完全に察してしまった。お互いに目を合わせて苦笑いを浮かべる。多分、みんなが思っているのは同じ内容だろうなと思いながら、会計を済ませ、「また来てね」と笑顔を浮かべた伊藤さんに会釈を返した。

カフェの扉を開けた途端、2人が声をそろえて言った。

「「お似合いすぎ」」
「だね」
「というか納得?店員さんと付き合える女の人とかもう超絶美人かメンタル最強のどっちかじゃんと思ってた」
「ね。自分よりきれいな彼氏に耐えられるメンタルってどんなよって」
「ていうか不快感ゼロだった。やっぱり世の中顔なのかね」
「そうじゃないですかね。イケメンはなんでも許される、というか許す」

駅に向かいながら盛り上がっている2人に自然と笑みが漏れる。
失恋した時に一緒にいてくれたのがこの2人でよかった、と思うと同時に、幸せそうな顔の伊藤さんを思い出してまたさらに笑みが溢れた。

「また行こうね」

後ろからそう声をかけると、2人は笑顔で頷いた。



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