タナカ捕獲の裏側 ハンダSide
01




葦幹金融 社員(藩大組 若頭)31歳
ハンダ 本名:藩大【半田】尋之 はんだ ひろゆき
185cm ひょろ長
9年前、葦幹金融にスパイとして潜入


葦幹金融 社員(藩大組 所属)29歳
宇野 真人 うの まさと
175cm
5年前、葦幹金融にスパイとして潜入


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一昨日、集金に向かった奴に伊藤さんが家にいないというのを聞いて内心焦った。すぐに駆けつけて緊急時のために複製した合鍵を使って家の中を調べさせてもらったが、誰かと争った形跡もなかった。職業柄、拉致されただとかそういったものは雰囲気でなんとなくわかるので、金融には適当に理由をつけて明日また行くとだけ伝えておいた。

そして、翌日宣言通りに家に行くと慌てた様子の伊藤さんに出迎えられた。久々に見た伊藤さんの顔色はだいぶ良くなっていて、一緒に現れた梶野という男のおかげらしかった。熱い視線を伊藤さんに送るのを見てほんの少し残念に思った。梶野には冗談交じりに伝えたが、割と本気で伊藤さんを囲うのも悪くないと思っていた。

梶野からの電話を切って、貰ったリストを眺めながら咥えていたタバコを揉み消す。事務所への扉を開けて灰皿に吸殻を投げ入れると、山盛りになったそれが少し崩れた。

葦幹の社長を尋問中だが、こいつも田中に騙されて金を持ち逃げされたらしく、全く役に立たない情報しか吐かない。なかなか掴めない足取りに苛立ちが募っていたが梶野から有益な情報が入った。リストに並ぶ店の中には、クスリで商売をしているのを知って警告したことのある店がいくつかあった。ヤクザの目を掻い潜ってはいたようだが、一般人からの探りに対しては警戒心が足りなかったのだろう。

「若、やっぱり葦幹のやつ、特に情報落ちません」

尋問をしている部屋から出てきたのは、5年前に葦幹金融に潜入をした部下の宇野だ。歳は俺より二つ下で、パッと見はカタギの好青年に見える。送られてきたリストをタブレットに表示させて渡すと、不思議そうな顔をしつつも受け取って目を通す。

「これは?」
「田中が出入りしてる店のリスト、らしい」
「え?あー、マジすか。てか、この店とかって・・・」
「あぁ、何回かシメたことある店あるよなぁ。ったく、カタギに調べてもらってようやく分かるって、どんだけ適当に仕事してんだよ、なぁ?」
「・・・すみません」
「いや、お前にはキレてない。・・・まぁ、いい。今からそこにある店、全部に人回せ」
「わかりました。すぐに手配します」

宇野は話が簡潔で理解力もあるので話していてだいぶ楽だ。俺は学こそないものの、頭の回転が遅いやつはどうも苦手だった。自身のスマホに情報を送り、タブレットを俺に渡してからすぐに事務所を出て行く宇野に「頼んだ」と言って尋問している部屋へと入る。

「あ、ハンダさん・・・!」
「どーもー。社長さーん。ちょっと見てもらいたいもんがあるんだけど、いいかなー?」

部下に殴られたらしい頬を腫らして床に座る葦幹社長の前にしゃがんでタブレットを見せる。リストを見た社長は、首を傾げた後に「あ!」と声をあげた。

「こ、この店!この店は田中が贔屓にしてた店です!それに、ここも・・・」
「うーん、やっぱそうかぁ。このリストにある店は、なんか臭ったんですよねー」
「わ、私は、本当に何も知らなくて・・・!」
「うん、知ってますよ。ただオツムが足りなかっただけですよねー。で、田中なんかに誑かさちゃって。おバカさんだなー」
「す、すみませんでしたっ!どうか、命だけは・・・」
「50過ぎのおっさんの命乞いとかまじウケるー・・・ま、後のことは俺が決めることじゃないんで。オヤジにでも同じようなことやってみたらいいんじゃないですかね」

本当にこれからどういう風に処分されるかは、俺の知ったことではない。オヤジが決めることだし、俺はそういった面倒なことは嫌いだ。喚いてうるさい葦幹社長を部下に連れて行けと命じて、静かになった事務所のソファに腰掛ける。

一般人が調べたにしては正確な情報に、どこの探偵を使ったのだろうかとリストを眺める。
ここまでしてくれる人がいるなんて、伊藤さんは周りに愛されているようだと安心する。初めて会った時の暗い表情が忘れられなかったから。

リストにある店をシラミ潰しに調べているであろう宇野からの連絡を待ち、2時間が経った。大きな灰皿からはついに吸殻がこぼれ落ちてテーブルを汚していく。
24時半を過ぎて、俺も動くかと腰を上げたところでタイミングよく着信があった。表示された宇野の名前にすぐに電話を受けた。

〈宇野です。店の目星がつきました。場所送ります〉
「結構かかったな」
〈すみません。リストに載っている店が、どこも田中のお手付きでした。後日追って、また話し合いに来るとだけ伝えておきました〉
「あー、なるほどな。お疲れ。じゃあ、俺も今から向かう」
〈わかりました〉

事務所から出て車のエンジンをかけながら送られてきた住所を見ると、駅前から少し外れたところにある。駅前から探っていたから、少し時間がかかってしまったようだ。
車を発進させて事務所から20分ほどの距離の店に向かう。後少し、というところで着信が入る。ディスプレイを見ると宇野からで、何か動きがあったのだろうと特に焦りもせずに出た。

「何かあった?」
〈若!田中捕獲しました。それで、伊藤さんが、拉致られてました。送った店のオーナーも手伝ったみたいです。そいつも捕獲済みですが、手を出したみたいで〉
「は?・・・あー、まじか。場所は?」
〈南町の団地だそうです〉
「わかった。場所送れ」
〈若、そっち向かいます?〉
「いや、俺はこのまま向かう。少し遅れるからそのまま店ごと押さえとけ」
〈承知しました〉

9年も葦幹金融に潜入していた俺は、自らの足で集金に行っていたが流石に怪しまれてしまい、代わりに宇野を伊藤さんのところに向かわせていた。相変わらず、世間知らずな伊藤さんは宇野にも警戒心を抱くことなく、お茶を出してもらっただとか、世間話をしていたら1時間も経っていたという話をよく聞いた。羨ましい反面、伊藤さんへの申し訳なさが募っていた。葦幹社長と田中を捕まえるために泳がせていたのは事実だ。本来ならもっと前に捕まえていたはずだったが、当時担当していた組の人間が田中に唆されて裏切ったのがことの始まりだ。

車を路肩に停め、俺よりも迎えにいくのに適任であろう梶野に電話でことを伝えると、すぐに向かうと返事をもらったので電話を切った。

まさか、伊藤さんが被害に遭うとは。苛立ちから助手席のシートを思いっきり殴るが、気持ちは全く晴れない。気持ちを落ち着かせようと、タバコに火をつけてから再び車を発進させて田中と潜伏先の店のオーナーの元へ向かった。



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