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あんなことがあったというのに、晴れて恋人同士になった俺はハイテンションのまま、一緒に寝ようと誘ったが、断固拒否されてしまった。別にそういうことをしようと思ったわけじゃなく、純粋に同じベッドで寝ようと思っただけなのだが、梶野は赤い顔のまま慌てていた。
思春期のような反応をする梶野が可愛くて思わず笑うと、不機嫌そうな顔で寝室へ俺を引っ張っていき、早く寝るように促した。

付き合うと相手に対して甘くなるし甘えるのは自覚してる。恋愛というものが久々すぎて、度合いがわからないが、梶野に対しては存分にわがままを言って甘えたくなる。いたずら心と、少し本心を交えてベッドから離れようとする梶野の腕を掴んだ。

「なんですか?まだ身体が痛いでしょうから、早く寝ないと」
「うん。でもさ、俺やっぱまだ一人でいるの不安なんだよね。・・・一緒に寝てくれない?」

立っている梶野の顔を見上げてそう言うと、梶野は目を見開いて固まってしまった。

いたずら心は満たされたので、あとは梶野が一緒に寝てくれて、少しの本心を満たしてくれるかどうかだ。
実際は、向こうの部屋に梶野がいるのだと思えばそこまで不安ではないのだけど。でも、隣で体温を感じながら眠れるのであればそれに越したことはない。昨日の出来事は俺の中で結構でかいトラウマになっているようだった。
それに、俺がベッドを借りるということは梶野はソファで寝ることになる。昨日の夜からろくに眠れていないであろう梶野に申し訳ないと思う。

腕を掴んでいた手を下に移動させて、手を握る。軽く力を入れると、ぎゅっと梶野も握り返してくれた。

「・・・はぁ。わかりました、じゃあ、電気消してくるので待っててください」
「ふふっ、・・・ありがとう」

手を離してドアの向こうに消えていった梶野はほんの10秒ほどで戻ってきた。寝室の電気も弱められて、薄っすらと見える梶野のシルエットが俺の左に横たわる。俺とは反対の壁側を向けている梶野の背中に額を当てると梶野の体が大きく揺れた。

「梶野、ありがとう、ほんとに」

強がって一人で生きていこうとしていた俺を見つけてくれたこと、不安定な俺を支えてくれたこと、優しくしてくれたこと、一緒に寝てくれること。そして俺を好きになってくれたこと。
その全ての意味を込めて言ったつもりだったが、梶野に伝わっているだろうか。

告白されて、俺も梶野が好きだと自覚した。
タナカの知人の男に襲われた時は、嫌悪感しか抱かなかったのに、梶野にそういった感情を向けられても一切不快感などなくて、むしろ嬉しかった。まさか自分が男を好きになるとは思ってもみなかったけど、なってしまったものはもうどうしようもない。

梶野は俺が不安になるからそばにいて欲しいだけだと言っていた。正直、それは否めない。ただ、近くにいたのが梶野だったから、そう思い込んだだけかもしれない。
でも、それでもいいんじゃないかと思う。
好きになるきっかけはいつあるのか分からないものだし、それが今回、俺にとっての梶野だったというだけ。そして、そのきっかけができる原因になったのが、借金を抱えてしまったことと梶野が俺を好きだということだ。
つまりは、必然的に俺は梶野を好きになったんだ。

自分で言うのもなんだけど、俺は割と不幸な人生を歩んできたに違いない。半分は俺の責任だけど。母さんがいなくなって、天涯孤独になった上に騙されて借金を背負うことになった。そして最後には逆恨みで男に襲われ、殺されかけた。ハンダさんが動いてくれていなかったらどうなっていたことか。
だから、これからの俺が、今度は幸せになるために梶野のことを好きになったんだと考えれば、恋人になれたことは俺にとってもうすでに幸せだということだ。

色々と思い出して感傷的になったり、嬉しくなったりしていると梶野がもぞもぞと動く。背中から離れると、体を反転させた梶野と目が合った。目が慣れてきたのか、しっかりと見えるその表情は今にも泣きそうな笑顔だった。

「俺の方こそ、ありがとうございます。・・・受け入れてくれて」
「んー、今思えば、確かに梶野の優しさってただの先輩に取る態度じゃなかったよね。完全に落とされた。・・・だから、性別とかは関係ないんじゃない」

本心からそう伝えると、梶野は片手で顔を覆って低く唸った。眉間に皺も寄っていて、一見渋っているか、怒っているように見える。しかし、梶野が顔を隠す時は大体恥ずかしい時だとわかってきているので、ただただ、可愛く思う。
明るければ、赤く染まった顔を見れたのにな、と見つめていると落ち着いたらしい梶野が口を開いた。

「あー・・・だだ漏れでしたかね。そりゃ15年も片思いしてましたから」

15年、も。高校の時からと聞いた時はあまりぱっとしなかったが、年数で言われると長い。

「うわー、そう言うとすごいね。俺愛されてるなぁ」
「恥ずかしいんで愛とか言わないでください」

一つの枕に頭を乗せて、笑い合いながら会話をしているこの状況が、とてつもなく幸せだと思う。腕を伸ばして梶野の胸に顔を埋めると頭を優しく撫でられる。

「はぁ、俺、先輩には一生勝てない気がしてきました」
「なんで?力は絶対そっちのが強いでしょ」
「いや、そういうんじゃなくて」
「ふーん。まぁ、先輩としては威厳保てていいかな」
「ふっ、威厳はゼロです」
「はぁ?・・・まぁ、確かにそうか」

笑う梶野の振動が伝わってきて、心地がいい。相当寝たはずなのに重くなってきた瞼をごまかすために胸に頭を擦り付けると抱きしめられた。

「眠いなら寝てください」
「もう少し、話したいじゃん・・・」
「・・・明日から嫌というほど、話できますよ」
「あー・・・んー・・・そっか、そうだね」

完全に閉じた瞼をもう開けることはできず、おやすみなさい、と言った梶野の言葉に小さく頷く。
梶野の腕の中という最も安心する場所で、俺は眠りについた。



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