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※こちらのページには暴力的・性的表現がございます。苦手な方・15歳未満の閲覧はご遠慮ください。



















長い回想は終わって、ようやく冒頭に戻る。

いくら俺が嫌がっても、泣き叫んだとしても、もう助かることはないんだと思い知った。全部俺が蒔いた種だった。タナカに騙されたのも俺がバカだったからだし、その後に誰にも頼らず、孤独を選んだのも俺の意思だ。
霞んだ視界でも男が近づいてくるのは分かった。

もう諦めるしかないんだと、自分に言い聞かせて体の力を抜き、目を閉じると男の手が頭の後ろを撫でる。
吐き気と嫌悪感でいっぱいだったが、男は言った通りにすぐにロープをほどき、俺の口の中に入っていた布を取り出した。

「あぁ、ぐしょぐしょになっちゃってるね、かわいそうに。辛かったでしょ?」

俺の口の中に入っていた布のことだろうけど、いちいち言ってくる言葉が気持ち悪い。もうさっさと終わらせてくれと思いながら、目を閉じて黙っていると、突然後頭部の髪を引っ張られて激痛が走った。思わず目を開くと男の顔が目の前にあった。

「おい、人が話してんだから、目ぇ見ろよ。なめてんのか?」

先ほどとは打って変わった、低い声に思わず体がびくりと揺れてしまう。

「う、あ、やだ、やめてください!」
「あぁ、ようやく声聞けた。可愛いねえ。気持ちよくなったらもっと可愛い声になるんだろうね?」
「やだっ、やめろ!触んな!」
「ん〜、ちょっとうるさいかなぁ、今何時だと、思ってん、のっ!」

言葉と一緒に腹に男の拳がめり込んだ。ヒュッと息が漏れて咳き込んで俯くが、後頭部を掴んだ手ですぐに顔を上げられる。

「涙いっぱい溜めちゃって、かわいそうに。分かった?静かにしないと、痛いからね?」
「あ、う、ゲホッ、うぇ、や、やだ・・・やめてください・・・」
「ここで止めるとかありえないだろ?いい加減分かれよ」

もう一方の手で俺の顎を掴むと、後頭部を掴んでいた手がTシャツの中へと入ってきた。腹を撫でる生温かい手に、ぞわぞわと鳥肌が立つ。先ほど殴られた場所をぐっと押されて身体をよじるが、すると顎を掴んだ手に力がこもるのでただジッと耐えるしかなかった。

「ほっそいねえ。幾つだっけ?30超えてるよね?肌も綺麗だし、ああ、やっぱり藩大組のお偉いさんがいいお手入れしてるのかな?」

人の体を触りながら、事実無根なことを話しているが、もう否定したところで意味はない。違うんだと言って、この行為が終わるとは到底思えなかった。

「腕、解いてあげたいけど、流石に男一人を押さえつけてするのは大変だから、そのままにするね?あ、でも、シャツは邪魔だなあ・・・ま、どうせもう着ることないだろうしいいよね?」

そう言って男は履いているジーンズのポケットからカッターを取り出すと、襟に切り込みを入れ、両手で左右に引き裂いた。ビリビリと破けていくTシャツを見て、溜まっていた涙がこぼれた。

「そんなに泣かなくても大丈夫だよ、ほら、触っただけでも十分だったのに。体も顔と同じで綺麗だね」

支離滅裂な男の言葉は聞こえてくるが、意味をなさなかった。不快感と恐怖、そしてこんな状況でも、これから先に待ち受けるであろう孤独に不安と寂しさが募る。

男が男にレイプされたなんて、きっと、気持ち悪いと思われるだろう。原田、社長、旧友。梶野だってそうだ。みんな離れていくに違いない。天涯孤独な俺は、つい先ほどまで笑い合っていた、友人たちまで失う。一人は嫌なんだ。本当は一人で生きていくなんて、できない。

またしても、うまく息ができずに、ハァハァと息を荒げる俺に男は嬉しそうに言った。

「伊藤くんも興奮してきた?こういうの好きだったんだねぇ」

的外れな言葉に首を振るが、酸素が足りずに頭がクラクラする。
ついに体に力が入らなくなり、先ほどとは違ってどこも掴まれていない俺は床に体を倒した。

「あれ?どうしたの?抵抗されないのは楽だけど」
「あ、ヒュッ、ま、って、は」
「・・・何?過呼吸?・・・はぁ、面倒だなあ」

男は心底面倒臭そうにそう言って俺の口に手を当てた。開いた口から漏れる涎が男の手と自分の頬の間を濡らしていく。気持ちが悪い。だけど、だいぶ楽になってきた。

「治った?もういい?」

呼吸の落ち着いた俺を見て、手を離すと、敗れた俺のTシャツで手を拭った。そして再び、俺の体を弄る。

「次、過呼吸になっても気にしないからね?死にはしないんだろ?だったらもう、気ぃ失うでもなんでもいいよ」
「あ、はぁ、や、さわ、るな」
「・・・あー、めんどくせー」

男の目が座った。また殴られるのか、と目をぎゅっと瞑るが腹に衝撃はなく、唾液で湿った唇に生暖かいものが触れた。

男にキスをされるのはこれで二度目だ。一度目は飲みの席で酔っ払ってふざけた加賀美さんに、そして、二度目はこの、普通の見た目の非凡な男に。
顔を振って避けようとするが、両手で頭を固定されてしまっては逃げようがなかった。さらに男は俺の体を跨いで全身で押さえつけてくる。足で背中を蹴るが、全く効かない。

なんとか耐え抜いて、唇を離した男は、この短い間で見たどの表情よりも恐ろしい顔をしていた。まだ、下劣な言葉を並べてニヤついている方が、俺の抵抗に苛立って眉間にしわを寄せている方が、ましだと思えた。

男は無表情だった。

「なんか、冷めた。いいや。もう。別のことしようか」

口調は今までとは全く違う、抑揚のないものだった。恐怖に体を硬直させたが、男は俺の体の上から退いて大きく伸びをした。

「どうせさ、俺、多分、藩大組に殺されるか、警察にヤク中で突き出されるしかないんだよね。だったら、一回、人の命奪ってみるのも一興かな?って。どう思う?」

無表情のまま首を傾げて聞いてくる男は、人間ではなく、まるで壊れた人形のようだ。首を左右に振ることしかできない俺を見て、ハハッと乾いた笑いを吐いた。

「死ぬの怖い?」
「こ、わい、やめて、ください・・・」
「でも、伊藤くんが悪いんだよ?俺ノリノリで、優しくしてあげよって思ってたのにさ」

蛍光灯で逆光になった男の顔を見上げる。心底残念だというように肩をすくめたが、表情が全く伴っていない。

「やだ、いやです。すみませんでした。やです、ごめんなさい」
「うーん、可愛いんだけどね?今更っていうかさ」

立っている男の足が振り上げられるのが視界に入る。反射的に目を閉じるのと同時に再び腹に衝撃と激痛が走った。
一気に胃の中の物がせり上がってきて、吐いてしまった。それを冷めた目で見ていた男は、携帯を取り出して、電話をし始めた。

「あー、田中くん?・・・うん、やっぱやめた。面倒になった。うん。・・・それでさぁ、こいつって、生きてなきゃダメなの?」

こちらを見下ろしながら吐いたその言葉に恐怖を感じ、そして気持ち悪さと痛みから俺の意識は薄れていった。



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