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ようやく落ち着いた原田の隣にヨネダ社長が座り、その向かいに俺と梶野は並んで座った。

「原田くん、少しは落ち着いたか?」

梶野が電話でお願いしていた通りに、店員は最初にドリンクを持ってきたきり部屋に入ってくることはなかった。
飲まなきゃやってられないと言った原田に付き合って、社長は一緒に焼酎のボトルを頼んだ。俺は酒が好きじゃないし、梶野も車があるので二人で緑茶にした。

「はい、言いたいこと言ってスッキリしました。まだ言えって言われたらたくさんありますけど」

緑茶で割った焼酎を飲みながらジト目で睨んでくる原田に苦笑しか返せない。助けてくれと梶野に目を向けるが、しれっとお茶を飲んで流し、全くこちらに目をやることなく社長に話しかけている。梶野は変なところで意地が悪い。

「ヨネダさん、初めまして。梶野と言います。原田先輩と伊藤先輩とは高校が同じでした」
「おう、原田くんから聞いた。伊藤を見つけたって連絡もらった時に。会社経営してるんだったかな?」
「はい、7年ほど前に起業して、色々とやってます」
「おぉ、若いのに偉いなぁ」

梶野が褒められるとなぜか俺も嬉しくなる。緩む頬を向かいに座る原田に見られて隠すように話題を振った。

「そうだ、原田、結婚おめでとう」

電話口でももちろん伝えたが、直接言うと照れ笑いをしながらも、ありがとう、と答えてくれた。子供がもう二人いると言うのを聞いて驚愕したが、自分の年齢を考えてみれば普通のことだった。俺自身が借金のことしか頭になくて。30手前から時が止まっていたのだとわかった。

「子供、可愛い?」
「ん、めちゃくちゃ可愛いよ。お前も早く結婚しろよ」
「あーそうだねえ・・・こんな俺としてくれる人がいればいいけど」
「確かに・・・見た目は一級品なのになぁ」
「うるさいな。どうせ見た目だって良くないよ。ただのおっさん」
「そんなことはないけど、お前はあれだ、バリバリのキャリアウーマンとか敏腕女社長とかじゃないと多分無理」
「・・・それこそ俺なんか見向きもされないじゃん」
「いや、私が養ってあげたい!っていう人を狙えばいける」

結婚、か、と自分がしているところを想像してみるが全く現実味がない。第一に借金を抱えたままでは結婚はおろか、誰かと付き合うなんてことはできないし、心にそんな余裕もない。独りになるのが怖くて年下の男に泣いて抱きつくおっさんなんて、誰が受け入れてくれるって言うんだ。原田と社長に久しぶりに会うことができて少しは余裕ができたのか、3時間ほど前の自分の行動を思い出して顔が熱くなる。その前からいくら醜態を晒していたからといって、流石に情けないし、恥ずかしい。突然赤くなったであろう俺の顔を見て原田が不思議そうに首をかしげる。

「なに?どうしたの、しんちゃん。・・・あ!もしかして好きな人はいるのか?」
「え!?いないいない!なんでそうなるの!」
「だって結婚の話してて顔を赤くするってことはそう言うことじゃねえの?」

好きな人、と言われてさらに顔が熱くなる。好きな人ではなく梶野に対しての行動を思い出していたのだけど、側からみれば確かにそう捉えられるかもしれない。茶化してくる原田を流しながら再び梶野に目を向けると、今度はこちらを見ていた。その顔はなぜか酷く辛そうだ。なぜだろうか。

「梶野?」

見つめたまま何も言葉を発しない梶野だったがすぐにいつもの笑みを浮かべた。そして俺から視線を外すと、落ち着いた声で社長に話しかけた。

「それではヨネダさん、本題に、入りましょうか」
「・・・ああ、タナカ、な」

そう、今日こうして集まったのはタナカのことで話があると言われたからだ。原田も社長の一言で真剣な顔つきになり、持っていたグラスを置いた。

「まぁ、原田くんは知ってるし、梶野くんも聞いているとは思うが、タナカってのは俺の会社から金を盗んで伊藤を騙して借金させた男だ」
「はい、聞いてます」
「それでな、まあこの4年間、どうにかとっ捕まえて詫び入れさせようと思ってたわけなんだが、一向に情報がつかめなくてなぁ」
「俺も、いろいろやったけど、全くダメだった」

原田は悔しそうに拳を握ってそう言った。

「でもな、ちょっと前に贔屓にしてる飲み屋のママに聞いたんだが、最近またここら辺の飲み屋にタナカが来るようになったらしい」
「え・・・?」

社長の言葉を聞いて、思わず体が震えた。探そうとは思っていたが、実際に出会うかもしれないと思うと恐怖が芽生える。割と俺の中でトラウマになっているようだ。

「最近って、一週間前とかですか?」
「ああ。二週間前に聞いたときは、誰も知らないと言っていたからな。多分、4年も経てば戻ってきても大丈夫だろうとか、そんな感じで戻ってきたんだとは思うんだが、何やらアイツ、馬鹿やったみてぇでな。ここら辺仕切ってる組の人間に目ぇつけられてほとんどの店出禁なんだってよ」
「・・・で、数少ないバカ仲間の店に出入りしてるから足取りがつかめるようになった、と」
「そうだ、梶野くん。だから出入りしてる店は特定できたし、捕まえるのも簡単な気がするがヤクザが絡んでるとなると、ちょっとなぁ・・・ってことだ」

話し終えた社長はグラスを持って焼酎を3分の1ほど飲んだ。原田はこの話を知っているのか腕を組んで黙って聞いている。梶野は一つ二つ質問をしたきり黙ってしまった。
重い空気に耐えられず、うつむいて拳を握りしめると頭に覚えのある温かさが触れた。顔を上げると梶野が大丈夫だ、と言うように頭を撫でている。少しして、撫でた手を顎に当てて何かを考えるように目を閉じたが、すぐに開けて何かを決めたかのように口を開いた。

「・・・俺が知っていることは、あまり知るべきではないとは思いますがお話しします。・・・タナカが金を借りた葦幹金融ですが、社長がとんでもないやつみたいで上納先の組がいろいろと動いてるみたいなんです。それでその社長とタナカが実は繋がっていたらしく、どちらも追われてます。これは、組の人から聞いた情報なので確かです」
「あー・・・マジかよ。タナカ、想像してたよりもとんでもねえやつだったわ・・・」
「だな・・・。え、と言うか梶野くんこの二日間?で、そこまで調べたのか?」
「いや、本当にたまたま、利害の一致で話を聞けただけです」

三人が話す内容を呆然と聞いていたが、社長の言葉でふと我に返った。俺がことを打ち明けてから梶野はずっと俺といたし、その間に梶野が会った人は一人しか思いつかない。

「・・・ハンダさん?」

ボソッと呟くような声だったけど、梶野の耳には届いたようだ。



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