02


女の子が大好きで、毎日のように合コンに通っていた大学時代にの俺に言ってやりたい。
卒業式前に、いつも隣にいた無愛想な親友に告白されて、不思議と嫌だと思えずOKをして、卒業し就職すると共に同棲が始まるということを。

同僚との飲み会で大して飲まなかった俺は、休日にしては早い9時前に目を覚ました。
俺の腰に手を回して眠る誠の寝顔を見て、昨日のことを思い出す。

あれだけ女好きだった俺が抱かれてやっているというのに、不安を抱え続けている誠は会社の飲み会に行くだけでいじける。いい加減俺もちゃんと誠のことを好きなんだと認めて欲しいと思っている反面、嫉妬まみれで独占欲の塊のような態度を取られると愛されてると実感できて嬉しくも思う。

今日が久々な休みだということはちゃんと覚えていたし、なんなら土曜日に飲み会をしようと言われ、断った結果、昨日が飲み会になってしまったのだけど。それを伝えない俺は、少し意地が悪いのかも知れない。

小さめのイビキをかきながら微動だにせず眠り続ける誠の頬に手を当てると、煩しそうに眉を寄せて身体を捻って俺に背を向ける。
その動きにムッとして背中にしがみ付くと、聞こえていたイビキが止まった。

「・・・はよ」

掠れた声が聞こえてきたので上半身を起こして顔を覗き込めば、薄目を開けてこちらを見上げる。

「おはよ」
「あー・・・頭痛ぇ」
「だろうな。強いわけじゃないのにあんなに飲むから」
「・・・うるせぇ」

恥ずかしい時に暴言を吐く癖はどうにかした方がいいと、誠の眉間によったシワを指で押すと首を振って嫌がる。しかし、その動きのせいで二日酔いによる頭痛が悪化したのか、ピタッと動きを止めて低く唸った。
勝手に不安になって、いじけて、ヤケ酒をして二日酔いって、なんて馬鹿なんだろう。まぁ、そんなところに愛しさを感じている俺も相当馬鹿なんだろうけど。

「水とかいる?」

気を使ってそう聞いたが、誠は小さく首を振ったきり目を閉じてまた寝息を立て始めた。
元々、残業続き休日出勤続きで疲れていたんだろう。目に入ってしまいそうだった前髪を避け、額にキスをしてからベッドから出る。
そして、休日の日課である、コーヒーマシーンをセットしてソファに腰掛けた。


それにしても、昨日の誠の発言には驚いた。
誠自身が男だというのに女ばかり警戒するからそのままを伝えると、意表を突かれた顔をして怒っていた。両想いであることに自信はないくせに、男の中では自分が一番だと心のどこかで思っていたんだろう。
その矛盾している考えに、意外と俺の愛も伝わっているのかと笑ってしまったのは仕方がないだろう。

やっぱり女がいいと言われたら敵わないという不安を、どうにか取り除けはしないだろうかと考えてみるが、そんなことは思ったこともないし、今後そうなるとも思えないからどうしようもない。
初めは軽いノリで付き合っていたというのに、すっかり誠に惚れてしまっている自分が嫌ではない俺は、二日酔いの誠のために味噌汁でも作ってやろうとキッチンへ向かった。


しばらくして、誠が起きてきたのは昼の12時過ぎだった。
だいぶスッキリした顔の誠は少し気まずそうに頭をかいて目を逸らし、何も言わずにキッチンに向かう。その後ろからそっと近づいて抱きつくと、びくっと身体を揺らして動かなくなった誠に笑みが溢れる。

毎回、ああしていじけた後に気まずそうにする誠が面白くて可愛くて仕方がない。

「頭、どう?もう平気?」
「・・・ん」
「味噌汁あるよ」
「おー・・・ありがとう」
「うん」

コンロに乗っている鍋の蓋を開けた誠にそのまま抱きついていると、誠の体に回した腕をスルッと撫でられる。
いつもだったら、動き辛いか離せだとか言ってくるのに。

やけに大人しい誠に、まだ本調子じゃないのかと腕を解いて顔を覗き込もうとしたが、撫でていた手が俺の腕を掴んでそれを止めた。もしかして、まだ昨日のことを引きずって不機嫌なままなのだろうか。
腕を掴む緩まない力に小さく溜め息を吐くと、腕が離され、代わりにぐるっとこちらを向いた誠が俺を抱きしめる。

なんだ、機嫌が悪いわけじゃないのか。誠の背中に腕を回して抱き返せば、耳元で安心したような息を吐く音がした。

「・・・昨日は悪かった」
「なにが?」
「しつこく言い過ぎた」
「うん」
「・・・でも、俺以外の男とどうにかなるのは勘弁して」
「まだそれ言う?・・・ありえないって言ってんのに」
「仕方ねえだろ。あんなこと言われたら」

寝起きの掠れた声にプラスして低く不機嫌そうな声色なのに、俺に抱きつく力を強めた誠の言葉と行動が矛盾し過ぎていて、笑いそうになってしまうのをなんとか堪える。
ここで笑ってまた拗ねられたら折角の休みが台無しになってしまうのは目に見えていた。

「いや、だからさ。俺にとっては女も男も全部含めて誠が一番だって言ったじゃん?誠と、その他大勢なわけよ。だからそんな不安必要ないって言ってんの」

昨日もしっかり伝えたはずの言葉を繰り返し伝えると、返事の代わりに俺の肩へと頭を預けた誠に胸がキュンッと高鳴る。
普段は無愛想だし言葉も乱暴なのに、時折見せるこういった可愛い一面に毎回好きだと思わされる俺のことも少しは理解して欲しい。

基本的に、誠はずるいんだよな。
自分の好きの方がでかいと思い込んでて、いくら伝えても信じようとしなくて。それなのに恋人としての嫉妬とか独占欲は一丁前に表現するし。あれ、もしかして振り回されてるのは俺の方だったりするのかもしれない。
これが惚れた弱みだと言うのであれば、確実に誠と同じくらいの感情かそれ以上のものを俺が持っているということになる。

先に惚れてきたのは誠なのに、と、堪えていたはずの笑みが自然と漏れてしまい、案の定誠が顔を上げて怪訝そうな表情で俺と目を合わせた。

「そうやって毎回笑うのなんなんだよ。・・・呆れてんの?」
「は?・・・あーそうなっちゃうかぁ」
「なんだよ」
「誠が好きで仕方ないなっていう笑い、なんですけど?」
「・・・は?」
「あー、好き、可愛い、って思ったら笑えてこない?こう、自然に、幸せだな、というか・・・」

自分から言っておいて、恥ずかしくなった俺は誤魔化すように誠の肩に額を寄せる。
ここまで言わなきゃわからないなんて誠はどこまで鈍いんだろうか。こんなに好きなのに。まぁ、嫉妬も独占欲も嬉しいんだけどさ。それとこれとは別で、俺の気持ちくらいは信用して欲しい。

いい加減、気づけよ、と少し痛いくらいに抱きしめる腕に力を込めると、振動で誠が笑っているのが伝わってきた。
滅多にみることができないレアな笑顔に釣られて勢い良く顔を上げる。
思ったよりも近くにあった誠の顔は、今まで見たことがないほど柔らかくて幸せそうな笑みを浮かべていた。

「ふ、あぁ、確かに。笑えてくる」
「・・・だろ」
「お前も、俺のこと結構好きなんだな」
「だから、そう言ってんのに。いつも」
「あー・・・そうか」

一年以上付き合って、ようやく俺の思いを理解したらしい誠に、もう嫉妬はしてくれないんだろうかと少しだけ残念に思う。わざと焼かせるようなことはしないけど、たかが同僚との飲み会ですら心配してくれるのは結構嬉しかったのに。

顔に思っていたことが出ていたのか、俺の頬を片手で挟んで無表情に戻った誠は器用に口端だけを上げて言った。

「お前が俺のこと好きなのはわかったけど、女がいる飲み会とか、そういう気のある男と一緒にどっか行くとかは許さねぇ。できれば会社の飲み会とか行って欲しくねえのは変わんねぇからな」

さっきまでの甘い雰囲気はどこに行ってしまったのか。
眉間にシワを寄せてすごんでくる誠にいつも通り吹き出すと、おい、聞いてんのか、返事は、など俺の肩を揺すって問いかけてくる。
ベッタベタの甘々じゃなくて、いつも通り無愛想な顔で独占欲を丸出しにしてくる誠の方が好きだなんて、俺も大概なのかも知れない。

今はまだ、もう少しだけ自分の方が好きが大きいと思っていてくれるのが俺としては嬉しいな、と予想していたよりもだいぶ育っていた誠への感情がバレないように、適当に返事をしてから、味噌汁の入った鍋に火をかけた。






fin.



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