01



恋人の嫉妬は蜜の味

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久我 祐生 くが ゆうせい
25歳 173cm

日比谷 誠 ひびや まこと
25歳 178cm



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大学時代からずっと一人の男に想いを寄せていた俺は、ようやくそれが実ったことに浮かれすぎていた。
相手はノンケで、合コンに行くんだと笑顔で言ってくる度に無理やり貼り付けた笑顔で送り出していたのが懐かしい。

卒業間近になり、このまま社会に出て疎遠になっていくのだと思うと耐えきれず、当たって砕けろと告白をした。

もちろん断られるのが前提で、しかも向こうが抱かれる側を引き受けてくれるなんて夢にも思ってなかった。
後々理由を聞いてみれば、自分よりデカい男をどうこうする気にならないし大変そうだからという、喜べはしない内容だったが、それでももう付き合って1年も経ったのでそれで良かったのだろう。

そう、もう付き合って1年も経っているのだ。それなのに、たまに俺の一方通行の片思いのように感じてしまうのはどういうことだ。

仕事が終わり、同棲しているマンションに向かっている途中、電車の中で届いた恋人からのメッセージにまたかと溜め息が漏れる。

〈飲み会あるから先に寝てて〉

たった一言。そこに女はいるのか、また朝まで帰らないつもりか、など、複雑な気持ちを抱える俺のことなど考えてもいないその文にいつものように女々しい長文を打ち、そして消す。
結局送り返したのは〈分かった〉と一言だけだ。

一気に重くなってしまった脚を動かしてマンションに着き、誰もいない部屋のドアを開け電気をつける。

お互い入社して2年目に入り、飲み会が多いのもわかる。
それでも今日は金曜日だし、ここ最近土曜日は仕事が入っていた俺がようやく休みを取れた日の前日だというのに。

いつまでも不貞腐れている自分に呆れつつ、のろのろとスウェットに着替えて冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。
決してアイツに恋人として蔑ろにされているとは思っていないし、多分、アイツもちゃんと俺のことを好きでいてくれいているはずだ。じゃなきゃ、1年も一緒に住まないだろうし、男に抱かれるなんて受け入れないだろう。

そんなことをグダグダと考えながらビールを飲んでいると、気づけば12時を回ってしまっていた。

帰ってきたのが10時すぎだったから、もう2時間近く飲み続けていたらしい。
冷蔵庫の中にストックしてあったビール缶はもう残り2本で、空き缶は10本を超えていた。

男の2人暮らしで大したアテもなくただひたすら飲んでいたせいでかなり酔いが回った俺はもうベッドに行くことすら面倒だとそのままソファに横になる。

もしこのまま、朝日が差し込んできて目が覚めるなんてことになったら俺はまた落ち込むことになるんだろうな、と、随分とネガティブなことを考えながら重たい目を閉じた。


身体が揺すられる感覚に、酔った頭ではアイツが帰ってきたのだと理解できず、肩に触れている感触を手で払ってソファの背もたれに顔を埋めると、頭をパシッと叩かれてようやく目が覚めた。

「誠、起きろって、風邪ひくよ」
「・・・あー・・・おかえり」
「ただいま。ったく、どんだけ飲んでんだよ」
「・・・知らね」
「飲んだ缶ぐらい片付けろ」

口で文句を言いながらも、缶を集める音に身体の下敷きになっていたスマホで時間を見ると夜中の1時前だった。
終電前に帰ってきたのか。少し緩んだ頬を戻して身体を起こすと、キッチンから呆れた顔のアイツ、祐生がこちらを見ていた。

「明日休みだからって、ハメはずしすぎ」
「あー、悪い」
「ろくにもの食べてないじゃん。体壊すって」
「あぁ」

スーツから着替えもせずにせっせとゴミをまとめた祐生は深い溜め息を吐いて俺が座るソファに近づいてくる。
なんだよ、全部俺が悪いわけじゃないだろ、と恨めしく思いながら見つめていると、何も言わずに俺の横に腰掛けた。

その瞬間、祐生から香ってきた女物の香水に、眉を潜めてソファの端へ身体をずらすと怪訝そうな表情を浮かべて祐生が口を開いた。

「なに?なんで避けんの」
「・・・別に」
「別にってことないでしょ。なんなの?・・・あぁ、せっかく休み前なのに飲み会行ったから?」

分かってたのかよ、と無視を決め込んでいると、距離を詰めてきた祐生が俺の肩に腕を回す。そのせいでまた香ってきた香水に眉間にシワを寄せるとそこを祐生の指がグリグリと押した。

「なぁって。なんでそんな嫌そうな顔してんの」
「・・・臭ぇんだよ」
「は?・・・酒臭いってこと?そんなの誠もだけど」
「香水だよ、香水」
「え、香水・・・?」

祐生が香水をつけていないことなんて知っているのに、なにを言っているんだという表情で自分のシャツを引っ張って匂いを嗅いだ祐生は、あぁ、と納得した顔で頷いた。

「酔ってよろけた女の子支えたからその時に移ったのかも」
「・・・へぇ」
「つか、そんなに強くないのによく分かったな」
「・・・お前の匂いじゃないから」
「うっわぁ・・・なんか変態くさい」
「うるせぇ」

呆れ顔で言った祐生に、もういいと不貞腐れ具合がマックスになった俺は、回された腕をどかして寝室へと向かう。
こんな時、ベッドが別々だったらよかったのかもなと考えなくもないが、寝る時くらいしかそばにいる時間がないことが多いのを考えるとこの家にもう一つベッドを用意しようとは思えなかった。

広めのベッドの隅に横になり、わざとらしく外側を向いて横になる。
これではまるでかまって欲しいみたいだなと、くだらないことでガキみたいにいじけていることに自己嫌悪に陥っていると、ぎしっと音を立てて祐生がベッドに入ってくる。

本当は向かい合って、抱きしめて寝たいところだったが、一度そっぽを向いた手前引くに引かずじっとしていると、背後で溜め息が聞こえた。
今日帰ってきた後だけで何回聞かされたんだろうそれに、沸々と怒りと寂しさが込み上げてくる。

やっぱり、俺だけが好きで、未だに片思いなんだろうか。
そんなことを考えていると、ピタッと背中に体温を感じ、同時に腰に腕が回ってきた。

「誠、そんな端だと落ちるよ」
「・・・いい。大丈夫」
「・・・ごめんって」
「・・・なにが」
「だから、飲み会行ってごめん」
「・・・別に、怒ってない」
「じゃあこっち向いて、いい加減」

そう言って揶揄うように笑いをこぼした祐生に折れて身体を反転させると、再びギュッと俺に抱きついた祐生が胸にグリグリと頭を押し付けてくる。少し痛いそれに、頭を軽く叩くと楽しそうな笑い声が振動で伝わってきた。

「飲み会、女もいたの」
「・・・え?なに?」
「だから、飲み会。女もいたのかって」
「あぁ、いや、いないよ?同期の男だけで飲み会」
「・・・へぇ」
「なに、聞いといて信用してないじゃん」
「香水の匂いつけて帰ってきたからな」
「だから!よろけた子を支えただけだっての」

問い詰められている状況だというのに、楽しそうな笑顔でそう答えられるとなにも言えなくなってしまう。
それに、あまり言い過ぎて面倒だと思われるのは避けたかった。

「まぁ、女がいなかったならいいわ」
「うん・・・というか、誠は男なのに女を敵視してんだ?」
「だってお前、元々女好きじゃん」
「まぁそれはそうだけど。・・・男とどうこうなるかもって不安はないわけ?」
「・・・は?なに、俺以外の男と寝ようとしてんの?」

聞き捨てならないそのセリフに上半身を起こして上から睨むと、祐生は驚いた顔で俺を見つめ返す。
今まで、やっぱり女がいいと思われたら敵わないと気を張っていたが、祐生が男でもいいと思い始めているのならそれは別問題だ。自分のようなどこからどう見ても男である人間と付き合ってくれているということは棚に上げて、祐生は男を恋愛対象としては見れないんだと心のどこかで安心していた。

もし、祐生が別の男がいいと思ったのだとしたら。
もうそうなってしまえば、誰とも飲みになんて行かせられないし、家から出したくもない。

そんなドス黒い考えを浮かべている俺に対し、ようやく我に返った祐生が大きく笑い声をあげた。
それに今度は俺が驚く番だった。

「は、ははっ、自分が男だっていうのに、なんでそうなるわけ?」
「それは・・・」
「まぁ、確かに、誠以外の男を好きになるのは考えらんないけどさ。それでも、俺は今男と付き合ってんだよ?」
「だから、女がいいって思われたら終わりだと思ってんだよ」
「うん?あー、なるほどね。あー・・・可愛いなぁ、誠」
「は?」

突拍子もなく俺を可愛いと言った祐生は身体を起こした俺の首に腕を回して抱きついた。

「安心しろよ。男はもちろん、女も含めて俺の中では誠が一番だから」

そう言って唇に軽くキスをした祐生はまた俺に抱きついて小さく笑った。
それに対して、恐らく真っ赤になったであろう顔を見られないように、俺も祐生の身体に腕を回して力を込めた。



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