「伊織ー」 「なんですか?」 「ちゅーして」 「ちゃんと前見て運転してください」 「けーち」 口を尖らせながら不満げに車を運転するのは、私の夫である総司さん。まだまだ新婚ほやほやです。 そんな私達は今日、総司さんのお姉さんであるミツさんに出産祝いのプレゼントを買いにきた。 ミツお姉さんは最近元気な男の子を産んだばかり。本当はもっと早くから出産祝いを買いに行きたかったのだけれど、私達も新しいマンションに越してきたばかりで荷物整理に追われていた。 今日は日曜日でお天気も良いことだし、出産祝いを買った後は、二人でドライブ予定。 「で、どこで買うの?」 「んーと、ここの近くのベビー専門店で買おうかなって。そこを右に曲がった所です」 「はーい」 くるくるとハンドルを回す総司さん。ちょっぴり真剣な顔で左右確認する彼にどきりとする。 「着いたよ。足元気をつけて降りなよ。君って割とドジだし」 「だ、大丈夫ですよっ」 小さく頬を膨らませながらドアを開け、一応注意しながら車から降りる。今日は少しヒールの高い靴を履いてきちゃったし。 お店の中に入ると、若い女性の人や妊娠してる人などがほとんどで、男性の人は総司さんくらいだろうか。 「ねぇ、出産祝いって何買うの?」 「うーん、ベビー服とかおもちゃとか……ですかね」 「ふーん。それにしても、姉さんが母親になるなんてなぁ」 お店の中を物珍しそうにきょろきょろ見ながら話す総司さん。 「おめでたいですよね。そういえば、千鶴ちゃんも妊娠したみたいですよ」 私はベビー服を一着手に取り、どんな服が赤ちゃんの肌に良いか見てみたり。 「え!? そうなの!?」 「はい。この間、電話があって」 「えー……まさか先を越されるなんて……。大学卒業して一年も経ってないのに。さすが土方さん。手が早いよね」 「ふふ、とってもおめでたいです。私、報告が来た時すごく嬉しくて。千鶴ちゃんにもお祝い買わなくちゃいけませんね」 千鶴ちゃんも元気な赤ちゃんを生んでくれたらいいなぁと思いつつ、ずらりと並んだ小さなベビー服を眺める。 あ、この水色可愛い。男の子だしこれがいいかな? でもこっちの白もいいなぁ……。胸元の子犬の刺繍が可愛らしい。 いろんなベビー服を手に取っては戻し、手に取っては戻し……と、繰り返していると、総司さんがぽつりと呟いた。 「僕も子供ほしい」 えっ、と振り返ると、総司さんは真剣な表情で私を見つめていた。 「あ、赤ちゃんですか!?」 「うん。僕達の子供」 「僕の仕事も順調だし」なんて言って、彼は真面目に話している。 「う、えっと、あの、その……」 それはまあ……私だって総司さんと結婚してから赤ちゃんのこと考えたりしたけど……まだ早いんじゃないかなとか、私に母親が務まるのかなとか、いろいろ不安もあるわけで……。 というか、ここで子供の話!? この事はもっとゆっくりした時にまた二人で話そう。 「伊織?」 「あ、あの、私も赤ちゃんはほしいですけど、今は先にお祝いの方を考えましょう!」 「ちょっと、話そらさないでよ」 「水色と白、どっちがいいと思います?」 不満そうな総司さんに申し訳なく思いつつ、どちらにしようか悩んでいた二着を彼に見せる。 「そんなのどっちでも……水色」 「私も水色がいいかなって思ってました! じゃあこっちにしよう」 ミツお姉さんへの出産祝いもやっと決まり、会計に行こうとすると、総司さんがあるベビー服を見つめている。それはフードにうさぎの耳が付いた桃色のベビー服だった。 「僕これが欲しい」 「でも桃色ですし、女の子用ですよ? ミツお姉さんの子供は男の子で……」 「す……っごく可愛い。これ絶対着せたい」 きらきらと目を輝かせる総司さん。確かにこのベビー服は可愛い。私だって赤ちゃんがこれを着てる姿を見てみたい。だけど、男の子に桃色の服をプレゼントはさすがにダメかな……? でも、総司さんがどうしてもって言うなら……。 「そっちの服も買いますか?」 「……いや、伊織は先にそっちの水色の服を買ってきなよ。僕はもう少しここで見てるから」 「? じゃあ先に行ってますね」 「うん」 ……ベビー服に興味持ったのかな? それとも、“総司さんから”のお姉さんへのプレゼントかな? あんなに真剣なんだもの。きっと一生懸命選んでるんだなぁ……終わるまでそっとしておこう。 なんだか微笑ましくて、小さく笑いながら私はレジに向かった。 会計が終わった後、私はお手洗いに行き、メイクが崩れていないかちょっとだけ鏡で確認。 総司さんの元へ急ぐと、彼は既にお店の入口で私を待っていた。 「すみません……ちょっとメイクを……あれ?」 総司さんの左手に、ここのお店の買物袋。 「ふふ、やっぱり総司さんもミツお姉さんに出産祝い買ったんですね」 「何を買ったんですか?」と聞くと、彼はにっこり笑った。 「さっきのうさぎの服」 「そんなに着せたかったんですか。着た姿、早くみたいですね」 「せっかくですし、ドライブはやめてミツお姉さんのお家に行きます?」そう言おうとすると、総司さんは私より早くこう言った。 「そうだね。早く見たいな、僕達の子供がこれを着た姿」 優柔不断なお買い物 君と僕の、未来の子供用。 *END 二万打企画 莉子様へ お題:Fascinating(二人の日常で五題) |