たからもの | ナノ


「だから言ったじゃないですか、ちゃんと寝ててくださいって」

「ごめんごめん」

「そうやって無理するから、倒れちゃうんですよ」



あんまり心配かけないで下さい、と珍しく怒っている目の前の少女は。

少し前、隊の「秘密」を見てしまったことから身柄を新選組預かりとなってしまった。

名を名前ちゃんと言って、働き者な上にいつも笑顔だから幹部みんなから愛されてる。

特に平助くんなんてわかりやすくて―――



「もう、聞いてますか。沖田さん?」

「…ん?ああ、聞いてるよ」

「だったら今日は大人しく寝ててくださいね。後でお食事をお持ちしますから」




ふと寂しくなった、というのは後になって考えればそうかもしれない。

だけどそのときの僕は、無意識に気が付いたら彼女の手を引っ張っていた。




「…沖田さん?」



「…え?」




…あれ?
僕は、何をやっているんだろう。
放してあげなきゃ。


目の前にある名前ちゃんの顔が真っ赤だ。
可愛いなぁ、と思いつつ手を放す。





「あの…?」



わけがわからないといった様子でこちらを覗き込んでくる。




「名前ちゃん…今、暇?」

「え?暇、と言われればそうかもしれませんが…」

「だったらさ、もうしばらくここにいなよ。一人で寝てばっかりなのも退屈なんだよね」

「でも、沖田さんのお体が…」

「僕は大丈夫だよ」

「ですが…」



何だろう、この頑なさは。
普段の彼女だったら素直に従ってるはずなのに。

なかなかなびかない彼女につい、苛立ちを少し滲ませた声で言ってしまう。



「そんなに僕と一緒にいるのが嫌なの?」


「そ、そんなことないですっ!」



だったら何故、と尋ねる前に彼女が付け足す。



「沖田さんが早くお元気になられたら、また、一緒に巡察に行きたいと思って…」


だから早くお元気になって欲しいんです、と恥ずかしそうに笑った彼女はすごく可愛くて。

不思議と、胸にふわりと温かいものが生まれた。






























これはまだ、僕が恋心に気付く前の物語―――。










ある午後の話





*END
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