かわれる猫のひねくれた事



(モンゴメリ目線)

 そう、それはいうなれば、雪の影のような色。冬空の、ちっとも楽しくも無かった育て親ブリーダーの元で少ない娯楽の一つ。凍えるような冷たさの水は辛くてたまらないけど、雪が降る事だけは特別だったもの。
 その白さの陰影を持つには人の温みが強くて、生まれた頃から慣れ親しんだ其れがまるで別の生を得たように動く。物好きにも其れを追う眼は雪に混ざった淡い夏雨の色で、季節外れの夏がきたのかと錯覚した。
 
「お客様。そんなに見つめられると照れてしまうわ」
 
 そりゃあもう、本当は照れてしまう処じゃないのだけど。だって、貴方の眼、怖いくらいに上を見ているから。あたしと言う存在は魅力も欲される事も少なくて、そうよね、この耳と尻尾くらいしか価値がないのだから。
 
「________」
「ねぇ、耳なんか見ても何も出ないのよ貴方。ほら、赤毛なんてどこにでもいるわ」
 
 サービスとばかりに硝子を叩けば、もっと釘付けになる眼。雑種のあたしは物珍しくはない。ただ燃えるばかりのこの髪の娘は高く売れるだろうと、この耳や尻尾と相まって此処に高値で売り出された。世の汚さも知らない幼子の内から、何も楽しい事なんてなかったわ。慰みに入れられた玩具のアンが擦り切れて古くなるくらいあたしは此処にいるんだもの。その値札も年月を得る毎に下がる一方だから、理解くらいできる。大安売り、従順、抜歯済み、大人で躾もしやすい、なんて大嘘。
 嘘つきばかりの世界で、子供は美しい隣の子を選ぶのあたしはいつでもいつだって置いてけぼり。そんなの決まりきった事じゃない。血統書の無い赤毛。赤毛なんて嫌いだわ。暗くなったら硝子に映るあたしの姿のなんてみじめな事。もう大きくて、そりゃ隣の子が羨ましくてたまらない。あたしと代わってほしい。
 そんな目でみていたら、貴方はさっさと中に入ってしまった。ああ、きっと綺麗なあの子を選ぶんでしょうね。氷の解けた夏色の美しい眼に見つめられて、愛を貰うんだわ。沢山の幸福と過ごすんだわ。狡いなんていっても変わらない事実が妬ましいもの。隣の勝ち誇った目にふんと鼻を鳴らす。
 
「モンゴメリ、貴女、ちっとも愛らしくなくってよ」
 
 煩いわ。あたしを愛してくれる人なんて、この世にはいないのよ。そう返せば、歳も上の彼女は笑った。血統書付きだからかしら、彼女はとってもきれいに笑うの。向かいの硝子の傍で、椅子に腰かけるミッチェルのなんて優雅な事。貴方は善い飼い主が決まってるからいいわね。本当に羨ましいわ。心ばかりの祝いが口から落ちる。
 モンゴメリ、モンゴメリ。私の名を呼ぶ人に苛立ち紛れの感情を込めて振り返れば、何てことはなくて、あの人がいた。何の冗談かしらと息をつめる私に和らいだその眼が見つめて、見ないでと思った。人に見られることも嘲笑される事も慣れ親しんだあたしにそれを向けないで頂戴。でなければ死んでしまうかもしれない。ひねくれた猫のあたしは、その微笑みを優しさだと勘違いしてしまうじゃない。
 
「これを迎え入れたい」
 
その言葉に、向かいのミッチェルが眉を吊り上げて、おめでとうと囁いた。

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