町中で会うこともよくありました。
お互いに無感動な顔で向かい合って特に何も言うわけではないので端から見ればそれは少しおかしな光景でした。
それでもお兄さんは女の子が周りから受けている扱いも女の子が考えていることも分かっていたので何も言いませんでした。
女の子も同じでした。
慰めやいたわりの言葉を与えることはお互いが最も嫌うものだと言うことを酷似した兄妹は知っていました。

ある日女の子のお母さんが亡くなりました。
過労死でした。
誰も来ないことが分かっていたので葬式は挙げませんでした。
お父さんに電報で報告はしましたが返事は返ってきませんでした。
お母さんは貯金を残して最後まで女の子のために死にました。
女の子は涙一つ流すことなくお母さんをお母さんが生まれた場所へ送りました。
すぐにお母さんのお母さんという人から電話がきました。
こちらに来ないか、という内容でした。
女の子の年齢と環境を考えるとそれはごく自然なことでした。
お母さんの生まれた場所でお母さんと女の子の過去を知っている人はいませんでした。
一度だけ会ったお母さんのお母さんはとても優しい人でした。

ここに留まり続けることは何もないと知っていました、辛いだけだと知っていました。
それでも女の子はこの町を去ることはしませんでした。
遠いところにある幸せを自分が選ぶことは許されないような気がしました。
誰かと共に生きることはひどく離れた世界だと思いました。
だから、自分を一人にしたままのこの町が女の子にとっての最後の場所でした。
女の子はその時、なぜ内面までお兄さんと似ているのか分かりました。

お兄さんも女の子と全く同じことを考えていたのだと気づきました。


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