これは黒曜と哀しい過去を持つ女の子のお話です。

女の子が生まれたのは研究所でした。
女の子のゆりかごは試験管でした。
女の子の親は何人かの科学者でした。
女の子は試験管の中で人工の羊水に包まれてこの世に作られました。
女の子の遺伝子は冷凍の精子と卵子だったので誰も両親を知りませんでした。

試験管ベビーと呼ばれた女の子は科学者達の手によってしっかりと五体満足に生まれることが出来ました。
女の子は白い部屋の中で育てられました。
何かをするたびに記録を取られそれ以外の時は部屋の隅に鎖で繋がれたままでした。
女の子には名前もありませんでした。
人工に作られ試験管の中で形になった女の子を人として扱う科学者は誰もいませんでした。

科学者達はある兵器を作り出す実験のためにたくさんの子供を欲しがっていました。
それよりも欲しかったのは痛みを感じない子供でした。
実験の道具にするたび泣き叫び正確なデータが取れない子供より痛みを感じず回復を待たなくとも何度も続けて実験を行える子供を欲しがっていました。
そのために人工的に作り出したのが女の子でした。
女の子がある程度育った日、科学者達は痛みを感じない体にするための手術を行いました。
痛覚のある神経全てに麻酔をかけてしまえば痛みを感じることは無いだろうと言う試みでした。

手術は失敗でした。
痛みを感じる感覚は消えることなく大量に流し込んだ麻酔は女の子の脳に浸透しました。
脳を侵された女の子は眠り続けてしまう体になりました。
自分の力では起きることも出来ず夢と現実をいつまでもさ迷う可哀想な体になりました。


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