「さっさと隊室に戻れ七猫。葵様が心配なさる」
「…あのチビいるし、心配しない」
例え殺那の言っていることが本当にそうでも、仔猫が自分と同じようにいなくなれば心配するのか。
嫌だ。
しかし、そんな思考は読まれていたようで。
「あの仔猫は親がいる。いなくなっても親の元へ帰ったのかと心配などしない。だが葵様はお前の主じゃないのか?」
心配するに決まっているだろう、と言う言葉に何か憑いていた物がスッと落ちた。
葵を心配させるのは、やはり、駄目だ。
殺那に丸め込まれたと言うのは非常に気分が悪いけれど、それでも。
「ああ七猫、お帰りなさい」
帰ると葵が一番に声をかけた。
「怪我はしていませんか?」
「…何で?」
「飛び出して行ったものですから、何か無茶をしそうで」
確かに殺那が来ていなければそうしていたかも知れないので、押し黙る。
そんな七猫の頭を撫でてやった。
その手の感触に神経を集中させていたとき、仔猫の匂いが消えていることに気づいた。
「あの仔猫なら、さっき親が見つかりました」
「…本当?」
「ええ。七猫のおかげですね」
その一言にギクッとする。
実は猫仲間に仔猫の親を見つけたら居場所を教えるよう流しているのを、気恥ずかしいので黙っていた。
誰にも見られないようにはしていたが、この飼い主には筒抜けになっていそうで怖い。
葵がそれ以上話すことはしなかったけど。
「葵、嬉しそうだね」
「そうですね、全て丸く収まりましたし」
「…あのチビ可愛かったんじゃないの?」
確かにそうですが、と言って静かに微笑んだ。
「私には七猫がいますから」
それを聞いて、撫でられている所以外も温かくなった。
早く戻って来て良かったと思う。
さて、とそこで葵が言葉を区切って。
「ところで七猫、あれは妬きもちと言う可愛いものだったと見なしていいんですか?」
「…普通それ聞く?」
「少し聞きたくなってしまいました」
ずいぶんと楽しそうな声色と表情の飼い主と、頭に手を置かれている逃げられない状況から。
肯定しないわけには、いかないようだった。
Fin.
…言うのかなり恥ずかしいんだけど
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