一方。
外に飛び出して屋根から屋根をものすごい速さで飛び移っていく七猫。
腹の中がむしゃくしゃして気分が落ち着かない。
(何あいつ!ガキのくせに!
葵の猫は俺だけなのに!)
長い間走りに走って、一つの屋根の上で止まった。
隊室からだいぶ離れた場所に息を整えるため腰を下ろす。
今ここに誰かが来れば八つ当たり必至なので少し辺りを伺っておいた。
「…………」
爪を立てて屋根を引っ掻いても憂さが晴れない。
空が拾ってきたのが猫でなければ、とさえ思う。
怪我のまま葵に拾われて零番隊の世話になっていた時。
空から聞いた。
(殺ちゃんはねー、葵様の一番の部下なんだよ)
(一番?)
(そう。一番最初から葵様の側にいて、一番信頼されてるんだよ!)
葵がどこかへ行くときはほとんど付いてくる殺那の存在を尋ねたとき、返って来たのはそんな言葉。
副隊長。
その位置は決して覆らない。
それでも葵の一番になりたかったから、隷従の誓いをして、猫になった。
一番の猫ならそれで良かった。
けど。
「…葵、可愛いって言った…」
葵が仔猫へ可愛いと言ったのが癪だった訳ではない。
そんなの花にだって使う言葉だ。
けれどそれを言った時の葵の顔が、微笑んでいた。
自分へ向けるのと同じように。
葵は決して自分より仔猫を大きく扱ったことは無かったけれど、並べられるのも、嫌だった。
つらつらとそう回顧しながらしばらくその場に座り込んでいた。
自責で潰されて猫背の背中が更に猫背になりそうになる。
とうとう日も暮れかけてしまった、そんなとき。
「こんな所にいたのか」
背後から男の声がした。
葵だったらすぐに振り返っていたのだけど。
「…何でお前?」
「葵様でなくて悪かったな」
「ほんとだよ」
瞬歩でようやく七猫を見つけ出したのは殺那。
第三者の方が恐らく説得は向いていると直感したため、探しに行こうとした葵を止めて代わりにやってきた。
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