「葵様ー、またチビちゃんが鳴きやんでくれないんです…」
「はいはい」
「…………」
葵はよく仔猫に触れているようになった。
だからと言って七猫を放っておくということはなく、いつも通り頭も撫でるし呼びかけもする。
葵は世にも稀な博愛主義者。
今までの七猫へ接する時間は変わらない、ただ他の時間を削って仔猫の相手をしているだけ。
「にー、にー」
「猫ちゃんって猫の言葉が分かるんだよね。チビちゃんお母さんのこと何か言ってない?」
「…こいつガキだし。まだ喋れてない」
「そこは人間の赤ん坊と同じなんですね」
慣れた手つきで仔猫をあやす葵。
葵の腕の中で遊んでいる仔猫を見るたび威嚇したくなるが、猫の世界に置いてもそれは大人げない行為なのでできない。
近くの床をガリガリ引っ掻いてむしゃくしゃしていた時、ついに。
「葵様、チビちゃんのお母さんが見つからなかったらここで飼っちゃ駄目ですか?」
「この子を?」
「はい、隊の皆も大事にしてくれていますし」
さすがにそれはと呟きながら腕の中の仔猫を見やる。
幸せそうに目を細めている小さな体。
「でも、本当にチビちゃんってすっごく可愛いですよね!」
きゃーと指で仔猫の喉を撫でる空を見て、少しだけ葵が微笑んだ。
「そうですね、可愛いです」
「!!!」
それを見た瞬間七猫がガバッと起き上がった。
突然の行動に驚いている空を後目に、一目散にその場から駆け出す。
「え!?猫ちゃんどこ行くのー…って速ぁ!」
振り返ることなく風のように隊室からいなくなってしまった。
最初はそんな未知の行動に呆気に取られていた葵だが、ゆっくり状況を考えて何が起きたのか把握する。
空に仔猫を返したときの表情で、どうやら殺那にも分かったらしい。
「……俺は薄々勘づいていましたが、どうにもあいつらしい事を」
「そうですね、これが犬や小鳥ならまだ大丈夫だったかもしれませんが…」
ふう、と息を吐いた。
「猫だけは、駄目でした」
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